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アクア−Devil

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◆絵本風物語「ひっくりカメのレンズ ― 視点が変わるとき ―」長文版◆

むかしむかし、森のはずれに、小さな池と大きな古木に挟まれるようにして、
ぽつんとひとつの家がありました。そこには、ゆっくり歩くことが大好きで、
なんでも“じーっと見つめる”クセのある カメのレンズくん が住んでいました。

レンズくんが見ているのは、ほとんど地面ばかり。
落ち葉がひとひら落ちてくる前に風がどう動いたかもわかるし、
アリたちがどっちの方向へ食べ物を運んでいるかも一瞬で見つけます。
でもね、森の仲間たちはときどき笑って言うのです。

「レンズくんの世界は、地面と葉っぱと石ころだけなんじゃない?」
「もっと高いところから見れば、いろんなものが見えるのに。」

レンズくんはそのたびに、にこっと笑って答えました。
「ううん、ぼくにはぼくにしか見えない世界があるんだよ。」

そんな平和なある日。
空が急に真っ暗になり、木々を根っこごと揺らすような大嵐がやってきました。
枝はバキバキ折れ、葉っぱが渦になって空へ巻き上がります。
リスくんは木の上で震え、ウサギさんは穴の入口で右往左往。
小鳥たちの巣も飛ばされそうで、森じゅうが混乱していました。

そのとき、森に住む知恵者 フクロウ博士 が
ぽそりとつぶやいたのです。

「こんなときほど、ものの見方を変えるのじゃ。
 視点が変われば、行ける道も変わる。」

そして博士は、ちょこんとレンズくんの背中に降りてきて、
「すこし失礼」と言いながら、
レンズくんの体を“くるり”とひっくり返したのです。

――その瞬間。

レンズくんの世界が、音を立てて変わりました。
いつも見上げても届かないと思っていた高い空。
雲がどんな形でどちらへ流れているのか。
木々のてっぺんがどう揺れ、森のどこが危ないのか。
視界いっぱいに広がる“空の世界”が、そこにありました。

「わあ……ふだんとこんなに違うんだ……」

嵐の中なのに、レンズくんは見とれるほどでした。
地面だけ見ていたときには気づけなかったことが、
次々に見えるのです。

折れた大きな枝の下で泣いているリスくん。
風に煽られ、バランスを崩しそうな小鳥の巣。
その影に隠れて震えるウサギさん。
池のほとりで身を寄せ合っているカエル家族。
そして、風の流れから、どの方向へ避難すれば安全なのかまで。

視点が変わっただけで、世界はまるで違う森のように見えました。

フクロウ博士がそっと元に戻すと、
レンズくんは地面を見つめながらも、
“空の景色”を頭の中にしっかり残していました。

「博士、ぼく……みんなの安全な場所がわかるよ。」

レンズくんは、ゆっくりだけど迷わずに歩き出します。
地面の細かい揺れで風の強さがわかるし、
空を逆さに見たときの記憶で嵐の向きを思い出せます。
いつもより少し大きな声で、仲間たちを呼びました。

「こっちだよ、ついてきて。
 ぼくには、さっき見えた森がまだ見えてるんだ。」

最初は不安そうだった仲間たちも、
レンズくんの確信に満ちた声に導かれ、
ひとり、またひとりと後ろをついていきました。

レンズくんが案内した先は、
大きな岩山のかげになって風がほとんど来ない場所。
そこは、地面もしっかりしていて、
嵐の勢いも直接届かない安全な“森の避難所”でした。

仲間たちはそこで嵐が過ぎるまで身を寄せ合い、
声をかけ合い、お互いの不安をあたためながら時を待ちました。

やがて嵐が静かに遠ざかると、
森はまだしっとり濡れていましたが、
仲間の顔には安堵の笑みが広がりました。

「レンズくん、君のおかげで助かったよ。」
「いつもの目線じゃ気づけないことを、気づかせてくれたんだね。」

レンズくんは少し照れながら答えました。
「ぼくはただ……ひっくり返ったとき、
 あんなふうに見える世界があるって知っただけなんだ。
 でも、視点がひとつじゃないってわかったら、
 なんだか森がもっと広く感じられたんだ。」

その日の夕暮れ、
森にはひとつの新しい言葉が生まれました。

「視点が変われば、世界も救える。」

そしてレンズくんは、
空と地面、どちらの世界も見つめながら、
これからもゆっくり、しずかに森を歩いていくのでした。

おしまい。
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