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ぬろえ

ぬろえ

洗濯ばさみがきっちり一個足りない朝に限って、天気は抜けるように良い。

ベランダのロープにTシャツを並べ、最後の一枚の前で手が止まる。指先は空をつまもうとして、つかめない。

仕方がないので、二枚を一つで挟む。Tシャツは少しだけ寄り添い、裾が重なって、風が来るたび同時にふくらむ。見た目はきれいじゃない。でも、乾く。乾くなら、まあいいかと私の中の厳格さが席を外す。

思い返せば、最近の私は“ぴったり”に敏感すぎた。予定は5分単位、文章は句読点の位置まで整えた。なのに、心だけがいつも半歩遅れて、文末に取りこぼしを作る。洗濯ばさみが一個足りないみたいに。

風が強くなって、二枚のTシャツが同時にバサッと鳴った。音は少し大きくて、ちょっと笑った。足りなさは不便だけど、二つをひとつで受け止めると、リズムが生まれる。たぶん生活も同じで、どこかの不足が、どこかの調子を生む。

昼すぎ、取り込んだTシャツに小さな跡が残っていた。洗濯ばさみの楕円。完璧じゃない印でも、それが今日の晴れの証明になる。

明日は洗濯ばさみを買い足すつもり。けれど、もしまた一個足りなかったら、そのときは二枚をひとつで挟もう。きっちりの外側に、ちょうどいいが落ちているかもしれないから。
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