共感で繋がるSNS
GRAVITY(グラビティ) SNS

投稿

マサヤス   龍之介

マサヤス 龍之介

アイオワから来た男 # 8

#トラディショナルジャズ


☆『ビックス交遊録』

ビックス・バイダベックを知的な男だったという者は、滅多に居なかった。だが、そうした人物像は、多分に正確さを欠いている。成功したアイオワの実業家である父親といい、子どもの頃音楽で賞をもらった母親といい、彼を育んだのは大学生の大多数を送り出す典型的な中流家庭である。
 怠惰なうえ音楽に憑かれていたので、ビックスには堅苦しい高等教育はとうてい望めなかったが、それでも大学生の友人からは仲間として扱われた。(この"怠惰"という見解はリチャード・ハドロックの著述の引用であり、ラルフ・バートンは「怠け者にあんなコルネットが吹けるか!と反論している)ことにホウギー・カーマイクルとの交流や、短期間ながらホウギーの学友ビル・メーンクハウスとのそれは、彼が生まれて初めて胸襟を開く程だった様である。
メーンクハウスとは或る日シュルレアリズム気取りの『ウィートナー試問』という一編を読み上げて、ビックスの反応を窺うことにした。
一、ウィートナを四通りにつづれ
二、 雨降りにはどんな馬
三、 フライトルナを定義せよ、そしてアミーリアとは
四、 ヴェターに関して知りうることをすべていえ
五、 ニュー・メキシコでの敗北に関して知りうることをすべていえ
六、 スケートについて短い日記を書け。三頁めを開いたままにせよ。
カーマイクルによれば、ビックスはしばらく考えてから、ひと言「ぼくは詩人(スワン)じゃない」と答えた。大学の友人たちは大喜びした。ビックスの知る職業演奏家は、大学教育を受けたウルヴェリンズはともかく、大抵、悪乗り屋(ジョウ・ヴェヌーティ.-V、ウィンギー・マノン-tp、ドン・マレイ-cl) か、音楽を第一に感情の表出と見るかたくなな半知性タイプ(メズ・メズロウ-cl、アート・ホーデス-p、エディ・コンドン-g.)のいずれかである。たぶん彼らは、ビックスがすぐに分かったようには、メーンクハウスをひとりとして理解出来なかっただろう。なんでも話し合えるという相手は珍しく(ドラマーのデイヴ・タフはそのひとり)、このことが、ひとつにはビックスの孤独の理由だったのかも知れない。メーンクハウスとはじきに気心を知り合えたが、ウィンギー・マノンらの演奏家仲間は、ビックスが周囲に張り巡らせていた防御の霧を透視出来なかった。「ビックスという男は天才肌て、我々には彼のことがよく分からなかった」と、マノンは振り返る。「音楽の話ばかりで、この和音を出してみようとか、今夜は仕事のあと、tp.3本でハモってみようとか云うんだ。思い思いの生活を楽しむことなど、我々にはして欲しくなかったらしい」
学課の復習をしていたとき、エディ・コンドンは思いがけない会話をビックスと交わしたという。「『ところで』と、私は言った『プルーストって誰だっけ』。ビックスは和音をひとつ叩き、暫く耳を澄ませてから、不意に「コルク張りの部屋に住んでいたフランスの作家だよ。翻訳じゃ彼のはつまらない」という。私はピアノにもたれ掛かって『そんなことどこで仕入れた』と問いただした。彼は謎めいたまなざしをくれる。「さあね」」
他の知人達も、ときには気がつかなかった訳ではない。「ビックスはものすごく頭が良かった」と、フランキー・トラムバウアー-CメロSax は回想している。「音楽だけでなく、どんな話題にでも入れた」
ウルヴェリンズ解散後、ニューヨーク滞在中にビックスはジェネットの録音がもう一度持たれる。ウルヴェリンズの3人(ビックス、ムーア、レイブルック)がtb.のミフ・モール、P.のルーブ・ブルーム、Cメロディ・サキソフォンのフランキー・トラムバウアーに加わって、♫F'lock O' Blues と ♫I'm Glad を入れたのだ。演奏は、1924年のいかにもニューヨークのバンドらしく、抑え気味の緻密なジャズスタイルである(ウルヴェリンズ以外の3人はレイ・ミラーの"ホット"がかったオーケストラから参加している)。吹き込みの体勢を占めたのは(1面のブルーム作の曲名♫ブルース信者 F'lock O' Blues とは裏腹に)ブルースを離れて、計算された音楽技法をジャズ仕立てで追求するという考えであったらしい。ビックスはウルヴェリンズの録音ほど熱が入っていないように思われる。




画像は若き日のビックス、トラムバウアーと握手するビックス、ビックスとトラムのセッションをまとめたCDジャケット、壮年期のミフモール、ルーブブルームの音源が聴けるYouTubeからブルームの肖像
GRAVITY

Flock O'Blues

ビックス・バイダーベック & The Wolverines

GRAVITY
GRAVITY37
話題の投稿をみつける

アイオワから来た男 # 8