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太郎さん

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ひまわり

カナコは煎ったひまわりの種子を奥歯に噛みながら、この国には詩人がいないと口ずさんだ。彼女はバルコニーの塀に肘を着いてまた溜息をついた。この高層ビルの上階から見える景色はまるで墓場だと彼女はその種子を齧った。

カナコは花瓶に活けた首垂れたひまわりから一粒の種子をとってまるで御守りのように首にかけたロケットのなかにしまいこんだ。彼女が好んだ白いシルクのシャツに銀のロケットが輝いた。彼女の近くにゆくと気流が渦を巻いたようになるのはおそらくそのせいだろう。

カナコはロケットに触れながら世界の何処に行けば詩が生まれるんだろうと呟いた。この疫病はいまに始まったことではないのよと彼女は胸のロケットに掌を当て地上を見下ろして思った。

狂った人の心を正気へと導く一粒の種子。狂ったこの世に信じられるものがあるとすればそれは一粒のひまわりの種子だけだとカナコは日記に書き残した。彼女は走り高跳びの選手さながらバルコニーの高めの塀をクリアした。

地上に叩きつけられるまでしばらくのあいだカナコは宙を漂った。彼女の首にかけられたロケットが彼女より浮きあがってその一点で空を支えた。この墓場だらけのこの世が一斉にひまわり畑になってすべてのひまわりが真実の太陽の位置を示していた。
                    2020/07/19
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