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kagenaカゲナ
第5話「未来に残されたもの」
洞窟の奥、崩れかけた戦場の中心で——
時を裂く光 ― 未来を掴む手
クロノは、小さくまばたきをした。
瞳の奥に、まだ冷たい異物感が残っている。
魔王から渡された、
一度きりの時間停止用コンタクトレンズ。
もう役目は終わっているのに、
その痕だけが、眼の奥に焼き付いていた。
(……止めたのは、私じゃない。
私は、見るだけ……)
彼女は静かに息を吸う。
時間はもう、止められない。
だからこそ――
ここからは、“未来”で戦う。
少し離れた場所で、天使の少年が膝をついていた。
金色の羽がかすかに揺れ、息は荒い。
彼の胸の奥で光が乱れ、力の流れが不安定になっている。
世界が静まり、クロノの視界には無数の“未来の枝”が広がっていた。
一秒先も、一分先も、すでに彼女の視界の内にある。
それだけじゃない。
一時間後、二時間後――
さらに三つの未来を同時に走らせながら、戦いの行方を解析している。
短い未来と、長い未来。
反応の遅れた未来、奇跡的に噛み合う未来。
それらが、彼女の中で同時進行で分岐し、同時に崩れ、同時に再構築されていた
(……この先に、勝ち筋はある……どこかに……)
戦場が、再び動き出す。
洞窟の天井はところどころ崩れ、
鍾乳石は何本も砕け落ちていた。
地面は無数の衝撃でえぐられ、
もはや平らな場所はほとんど残っていない。
湿った洞窟の空気は、
血と、焼けた魔力の匂いで息苦しいほど重くなっていた。
ここで、時間の流れの中で、
三時間近く戦い続けていた。
それなのに——
怪物の闇だけは、
まるで疲れることなく、
まだなお、力を増していた。
「……僕は、もう……少し無理だ。ミレイナ、クレアナ……頼む。」
そう言い残し、彼は壁にもたれかかる。
動けば、羽が砕ける――それほど限界だった。
それでも、視線だけは仲間たちから外さない。
ミレイナが短くうなずき、布を握りしめた。
「任せて。クロノ、誘導をお願い!」
「……任せて。」
クレアナの指先が閃き、光の陣を描く。
クロノは静かに息を吸い、意識を集中させた。
無数の未来が頭の中に重なり合う。
ひとつの未来ではない。
右に避けた世界、左に跳んだ世界、誰かが遅れた世界、誰かが倒れた世界。
何通りもの可能性を、戦いながら同時に演算する。
敵の動き、仲間の配置、光と影の流れ――
それぞれの未来で“どう崩れるか”を見極めながら、最短の生存ルートを探していた。
「ミレイナ、右に! 三秒後、地面を裂く!」
「了解!」
ミレイナの布が走り、闇の刃を受け流す。
「クレアナ、左の式を重ねて! 次の波がくる!」
「任せて!」
クレアナの光陣が展開し、防御の壁が衝撃波を弾き返す。
クロノも指先を震わせ、闇の粒子で補助線を引くように空間を縫った。
未来の“線”を、現実に引き寄せるために。
クロノの瞳に、時間の流れがいくつも走る。
(あと一時間……敵は再生が止まる。その時を――)
だが、闇の動きが変わった。
まるで、彼女の“視線”そのものを感じ取ったかのように。
影が、未来の軌道を裏切るようにねじれ、あり得たはずの流れを破壊してくる。
(……読まれてる……? 未来じゃない、“私”を……?)
「……ッ、動きが早い!」
黒い腕のような衝撃がクロノを襲い、身体が宙を舞った。
岩壁に叩きつけられ、息が詰まる。
それでも、彼女の瞳は“未来”を見失わなかった。
視界の端で、時間の線がかろうじて繋がっている。
(……まだ見える……次に狙われるのは――ミレイナ!)
「ミレイナ、下! 今すぐ避けて!」
叫びと同時に、地面を裂く闇の刃が通り過ぎる。
「助かった……クロノ、ありがとう!」
「大丈夫、まだ……動ける……!」
立ち上がる足は震えていた。
血が滲む手を押さえながら、それでも彼女は前を見た。
敵の動きを読み続け、未来を追い続ける。
勝ち筋は、まだ消えていない。
(もう少し……あと少しで、見つけられる……)
「クロノ、無理しないで! ここは私たちが!」
「ううん……見える限りは、まだ……導ける!」
闇の波が再び押し寄せる。
クロノは腕を伸ばし、その先に見える“線”を掴もうとした。
だが、敵の反撃が速すぎた。
エネルギー同士がぶつかり合い、爆ぜるような衝撃が走る。
力の奔流がぶつかり、洞窟全体が震えた。
衝突の余波が空間を裂き、地を揺らした。
クロノの体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
視界が揺れ、意識が薄れていく。
「……っ……ごめん……もう、少しだけ……」
未来の線が霞み、消えていく。
それでも、最後の一筋だけが残っていた。
(……この未来……だけは……守って……)
彼女の唇がかすかに動く。
それは、仲間たちへ託す“未来への座標”だった。
――そして、静寂。
天使がゆっくりと顔を上げる。
体は重く、羽も光を失いかけている。
それでも、立ち上がる。
限界を越えた体で、仲間の前に歩み出る。
――金の羽が、わずかに光を取り戻していた。
「……もう、これしか……ないか。」
天使の胸から、金の光が溢れ出す。
羽が震え、空気がわずかに焦げた。
命を燃やす覚悟――放てば、二度と戻れない。
静寂の中、彼は呟いた。
「――“終光断界しゅうこうだんかい”。」
刹那、空間が軋み、洞窟全体が金に染まる。
世界が光に包まれ、時間さえ止まったように感じた。
けれど、その輝きの中心で――胸の奥からリアの声が響く。
(だめ! それ以上は!)
「……リア、やめろ……今しか――」
(お願い、やめて! そんなの、もう嫌!)
リアの叫びが、まるで刃のように心臓を貫いた。
天使の腕が止まり、光の輪が震える。
不完全なまま放たれた力が、洞窟の奥を貫き、
空間を切り裂いた後、静かに霧散していった。
「……っ……」
力の余波が消える。
金色の光がふっと揺らぎ、羽が音もなく砕け始めた。
彼の髪が金から銀へとゆっくりと変わっていく。
その光は、美しく――けれど、どこか儚かった。
「……リア……君は……やさしいね……」
弱い微笑みを残し、天使の体が倒れ込む。
金の羽が舞い、彼を包むように光が広がった。
静かな空気が洞窟を満たす。
誰も声を出せないまま、ただその輝きを見つめていた。
次の瞬間、彼女の身体が淡く光を帯びた。
光が髪をなぞるたび、色が変わっていく。
銀から、雪のように――白く。
それは冷たさではなく、どこか優しい温もりを宿した白だった。
髪は静かに伸び、肩を越え、背に流れていく。
指先にかかるほどの長さに変わったその髪は、
天使が最後に放った光と同じ輝きをわずかに宿していた。
頬をかすめる風が、金の羽の残り香を運ぶ。
その温もりに包まれながら、リアの瞳がゆっくりと開く。
瞳の奥には、確かに彼の光が息づいていた。
声も姿も消えたはずの天使の気配が、
今は――彼女の中で、いるみたいに感じた。
やがて光が収まり、静寂だけが残る。
リアは、その場に静かに倒れ込んだ。
リアはもう、ただの少女ではなかった。
天使の記憶と光を宿す、
“世界に残ってしまった存在”へと変わっていた。



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WARMONGERの意味は?
意味: WARMONGER(ウォーモンガー)は、戦争を煽る人や、戦争を好む人を指します。特に、戦争を起こすことによって利益を得ようとする人々を指すことが多いです。
使用例: 政治的な文脈で、特定の国や指導者が戦争を支持する姿勢を示す際に「ウォーモンガー」と呼ばれることがあります。
関連する概念: 戦争を促進する意図や行動は、しばしば批判の対象となり、平和主義者や反戦活動家と対立することがあります。
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