文通の魔法再び｜GRAVITY(グラビティ) SNS

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みおこんぼ

2023/12/04

「文通」②

#不思議な話

あの日と同じ、真っ直ぐな言葉でした。
「だからさ、はい、これ。」
手渡されたのは、一通の手紙。
「気が向いたら返事頂戴。いつでもいいから。」
そう言って立ち去るSに、私は唖然としました。（いや、私、あなたのこと何も知らないけれど……。）
戸惑いながらも、押し付けられた手紙を返す術もなく、仕方が無いから持ち帰って中身を読むことにしました。

〈私があなたに敵わないと思ったのは、あなたの作ったクッキーを食べた時です。「一人暮らしなのに、測りとか持ってるの？」って聞いたら、「目分量で作った。」って言ってたじゃない？美味しかったんだよね、あのクッキー。衝撃だった。あと、常に男が切れないのも凄いと思ってた。別れてもすぐ次の男を連れて歩いてさ。正直羨ましかった。卒業論文も……。〉

ここまで読んで、軽く目眩がしました。
「いや、絶対に人違いだよね！？」
思わず声に出していました。自慢じゃないけど私はお菓子作りが苦手だし、クッキーなんて作ったこと無いし、一体誰と勘違いしているのか……。男が切れない？アルバイト三昧だった私のどこにそんな暇があったというのか。

Sは、私と同じ相貌失認症なのかもしれないなぁということに、ふと思い当たります。
(それなら仕方ない。Sも苦労してたんだな。)
私は、仕方なく返事の手紙を出すことにしました。人違いである旨をしたためながら、（しかしまあ、メールアドレスじゃなくて手紙って……Sってそんな子だったんだ。）と意外に思いました。
傍から見てコミュ力が高いSの姿からは、想像もつかない手紙という媒体。
どうやら上京したようで、住所も東京でした。少迷って、私も新居の住所を書いて投函しました。

出した時はまさか、返事が来るとは夢にも思いませんでした。

8月の半ば、茹だるような暑い日にその手紙は届いたのです。
〈返事が遅れてごめん。思ったより社会人って忙しいね。手紙読んだよ、びっくりした。人違いなわけないよ。誕生日は、8月5日でしょ？確かに大学では話さなかったけれど、アパートが一緒だったし、夕飯ご馳走にもなったことあるし。〉
ここまで読んでまた、目眩がしました。
(誕生日は、合ってるけど……全く身に覚えがない。)
段々怖くなったものの、好奇心に負けてまた筆を取ってしまいました。

#GRAVITY百物語
#私の実話シリーズ