不眠の友人Ｋとクラシックコンサートの深い関係

友人Ｋの話。昨日の振り返り。

友人Ｋと、クラシックコンサートに行くのはもはや恒例行事だ。

不眠症であるＫは、寝るためにクラシックコンサートを聴きに行く。私はＫと共にクラシックを堪能しながら、たまにＫがいびきをかきそうになると、脚をつねったり体勢を変えて阻止する。そんな関係である。

昨日訪れたコンサートは全席指定で、大変都合の良いことに、二人がけで周りと距離のある席を確保できた。だいぶ気が楽だった。Ｋの奇行で周りに迷惑をかけるわけにはいかない。

今回のオーケストラは、盛り沢山で、内容を詳細に記すと身バレの恐れがあるから割愛するが、大変長かった。演奏開始後3時間ちょっとの時間、Ｋは寝続ける……はずだった。
コンサート半ばになり、それは起きた。なんと、演奏者が歌い始めたのである。オペラの曲だから、歌は演出だったのだろう。意外性はあったが、素敵な歌声だった。
ふとＫを見ると、カッと目を見開き、驚きの表情でステージを凝視していた。
（…うわ、顔こわっ。心臓止まるかと思った。）見なかったことにして、演奏に集中する。歌が終わると、いつの間にか寝ているＫ。本日はいびきが少ないかわりに、芸術的な寝姿になっていた。

全ての演目を終え、爆睡のＫをたたき起こす。「ハラショー、ハラショー」と心底感謝の表情で、いつもの不気味な拍手をするＫ。
演奏者が一人残らずいなくなるまで、割れんばかりの拍手をおくる。

アンコールまで堪能した帰り道。
「最高だったけど、歌は反則だよな」とＫは言う。
「ああ、起きちゃってたね」と、本来なら当然のことなのに、私は言う。
「歌はさ、良すぎるよ、やっぱり」と、Ｋ。ああ、歌は起きて楽しみたい人なのね、と思う。
「歌で起きるってことは、さほど熟睡してないんじゃない？」と問うと、「いや、海より深い眠りだった」と力説し始める。それを適当に聞き流して笑う。
ふと思う。Ｋは、不眠症が治ったらもう一緒にコンサート、行かないだろうな。あとどのくらいかな、この関係も。
「そういや、最近はどんな感じ？」急にＫに問われてドキリとする。話したいことは、たくさんあった。

やっぱり私はＫとの時間が、意味不明だけど好きなんだと思う。不眠がなければ続かない、曖昧で不確かな。いつか必ず離れていく。そんなお話。
あ、でもＫの散髪は私がやってるんだよなぁ……。

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