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誤条悟
夢を見ていた。
夢の中のわたしはなぜか金髪にバリバリのメイクを施したギャルになっていて、傍らにはいかにも反社のようないかついおっさんがいる。
「ほほう、漱石の『夢十夜』のような話じゃあないか。さすが、文学少女のようないでたちをしているだけはあって、なかなか興味深い話をしてくれる」
そうして今、目の前にいるのは、文士気取りの着流し姿の男。大方、太宰治のコスプレでもしているのだろう。この街なら、こんな奴がいても不思議ではない。
親と大喧嘩をして、家を飛び出した。
僅かな金とスマホだけを頼りに、辿り着いたのが、この日本を代表する繁華街だった。
誰かが言った。
木を隠すなら森にしろ、と。
だから、わたしはここに来た。
昔は人混みが嫌いだった。
わたしは人見知りで、大勢の人がいる中では緊張して話せなくなる。だったんだけど、、、
ここには、サラリーマンも女子高生もおじさんもおばさんも老人もいる。
ヤクザも風俗嬢もコスプレイヤーもオタクも、どんな変な奴でも当たり前のように受け入れてくれる、この街も案外悪くないものだ、と思い始めていた。
それに、この街は、誰も私を気にも止めない。
黒髪眼鏡の地味な女子高生、いや入学前に家出したので女子高生ですらない、この私を誰も気にしない。家出してきた身分としてはありがたいのた。
とはいえ、食費をケチって、ほぼ飲まず食わすで、ここまで来たわたしは、さすがに体力が尽きる。
道端に倒れ掛けた私を受け止めてくれたのが、今、眼前で安物のコーヒーを啜っているこの男。
少し休んだほうがいいと、小さな喫茶店まで案内され、席に着いた途端、眠気が限界に達して意識を失ってしまったのだ。
そうして、見たのがさっきの不思議な夢。
「案外、予知夢になるかもしれないなあ。君、知ってるか? ハイスクール奇面組の最終回! 最終回にして、今までの単行本全26巻に渡る物語がヒロインが休み時間に見ていた夢だった!となる、なかなかトンデモな結末でなあ。夢オチと当時は散々叩かれたそうだが、あれは作者によると、ループして最初に戻ったということらしい。実際、この漫画は人気があって作者が止めたくても止められずに、作中で作者がタイムマシンに乗って時間を巻き戻して過去エピソードを描いていたりしたから、、、」
ひたすら、わけのわからないオタ話をし始めたので、わたしは男がおごってくれたパンケーキに手を付ける。甘い。美味しい。家に居た頃は、こんな糖分マックスなものはとても食べれなかった。
「きみ、いい顔で食べるなあ。それはこの店でも、なかなか評判の代物でね。おごった僕も鼻が高いよ。なあに、気にしなくていい。僕は今、日本国に養ってもらってるような身分だからね」
ナマポというやつか。助けてもらって酷な話だが、ここまで堕ちたくはないと思う。どうにかしないと。
「ふう、働かないで味わうコーヒーの美味いことよ! まあ、これは無料チケットで注文したものだけどね。さて、どこまで話したっけ?」
「その奇面組のアニメをきっかけに秋○康が嫁さんをゲットしたって話でしたよ」
「そうそう秋○康の嫁だけじゃなく、キムタクの嫁まで主題歌に絡んでいたという、、、て、そんな話まできみにしたっけ?」
そう言いながら困惑する目の前の男。中年ながらも、どこか幼さを残した、その表情に、わたしは会ったこともないはずなのに奇妙な既視感を覚えていた。なんだろう。父さんに似ているのかな? いやいや、父さんはこんなに弱々しくない、もっとしっかりしていたはずだ。……はずだ。今はいない人間に関する記憶なんて、曖昧なものだけど。
なんにせよ、これからは自分ひとりの力で生きていかなきゃいけないんだ。しっかりしないと。
「助けていただいて、こんな美味しいものまで、おごっていただいて本当にありがとうございました! 私、もう行きますね」
どうにか、これからのことを考えるくらいのエネルギーは回復した。なんとかして、私はこの街で生きていかなきゃいけない。その方法を考えなければいけないのだ。
「おっ、もう行くのかい。まだ僕はこのコーヒーを飲み切っていないというのに」
==
ばたん、という扉を閉める音と、老いた店主の「おあっ、あ、あふっ、ありがとうごじゃいまーす」という間延びした声が、下野昂の耳に入ったのはほぼ同時だった。
「やれやれだな。死にたがりの僕が言うのもなんだが、生き急ぐのはよいもんじゃない。思ったより、時間が早まったが、クズ間に合うか?」
下野のスマートフォンのスピーカーから、男の声が返ってくる。
「お前が女を長時間相手できるとは、こっちも思ってない。安心しろ、もう俺はこっちに来てる。あの黒髪眼鏡の、いかにもなお嬢様育ちなやつか?」
「そうそう、クズの好みとは180℃違うタイプだけどね」
「……ということは、お前の好みだってことか。大丈夫だ、お前の望み通り、悪いようにはしない。って、そろそろ切るぞ」
「ああ、頼んだ。別に、僕の好みじゃあ、、」
僕はもっと破滅的なオーラを持った女性が好きなのだ、あんな寝言で「……ママ、ごめんなさい」とか呟くような、かよわい子じゃない。
下野は、うなされながら眠り、ときおり儚げな声をあげる黒髪眼鏡の少女の姿を思い出していた。
「……まあ、小説の題材にはなるかもしれんなあ」
==
さっき太宰コスプレの変なおっさんに絡まれたと思ったら、今度はいかにも反社にしか見えない怪しい男がわたしの前に現れた。今日は厄日なんだろうか。反社のおっさんは、意外にも真っ白な歯を見せて、わたしに笑い掛ける。
「おまえ、家出少女だろ?」
その男は、夢に出てきた男に似ていた。
ー了ー
to be continued to "Underground Underpeople" main storys
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エキドナプルプルは、主に日本のアニメやゲームに登場するキャラクターや生物の一種で、特にファンタジーや神話の要素を持っています。以下にその特徴をまとめます。
外見: エキドナプルプルは、通常、エキドナ(有袋類の一種)をモチーフにしたデザインで、丸みを帯びた体型や柔らかそうな質感が特徴です。色合いは多様で、可愛らしい印象を与えます。
性格: 一般的に、エキドナプルプルは愛らしく、親しみやすい性格を持つことが多いです。友好的で、他のキャラクターと協力する場面がよく見られます。
能力: 物語によって異なりますが、エキドナプルプルは特別な能力を持っていることが多く、例えば、癒しの力や自然との調和を象徴する存在として描かれることがあります。
使用例: ゲームやアニメの中で、エキドナプルプルは仲間としてプレイヤーをサポートしたり、ストーリーの重要な役割を果たすことがあります。特に、ファンタジー系の作品で見られることが多いです。
このように、エキドナプルプルはその可愛らしさと特異な能力で、多くのファンに愛されているキャラクターです。

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