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ゆま
「兄貴、大丈夫?」
光紫に尋ねられるや、側で犬は口元に手を当ててクスクスと笑い出す。その事がなんとも気恥ずかしく、俺は凄んだ。
「あ?」
「兄貴って犬に話しかけて喜ぶような人間だった?」
「喜んでねえよ見ろよこの顔疲れ切ってんだろうが」
「いや、喜んでる」
光紫は俺をからかうように歯を見せて笑った。思いきり眉間に皺を寄せて睨みつけると、光紫は「わ、怒んなよ」と俺から少し距離をとる。
「恋紫」
その時、犬が俺を呼ぶ。犬を見下げると、犬は俺をまっすぐな目でとらえ、こう言った。
「光紫はお前のこと大好きなのだ」
その言葉で心の中に雫がひとつ落ちた。
大きな波紋を広げて波立った心で、光紫を見る。風になびいた髪の隙間から、光紫の額の古傷が見えた。
幼い頃、俺がつけた傷だ。
間違えて怪我をさせたなんてありふれたものではない。
光紫なんかいなくなればいい。
そう思って、積み木で殴りつけた。
その後、光紫はしばらく俺に怯えていたっけ。
鼓動が妙に大きく脈打っている。嫌な感じだ。
「そんなわけあるかよ」
「絶対絶対好きなのだ」
「うっせえな!」
怒鳴りつけても犬は動じない。
ただ、ただ、俺を真っ直ぐに見つめるだけだった。
その代わりに肩を震わせたのは光紫だ。
「え、え、なに、こわ」
「なんでもねえよ、帰ろうぜ」
その言葉を残し、俺は先へ先へと帰路を歩む。「このワンコどうすんのー」
光紫の声が聞こえる。
「好きにしろ」とだけ吐き捨てると俺は、本当は背を向けたい家を目指したのだった。
#犬人 #小説 #小さな幸せ #傷 #独り言

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