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わんわん
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第2話
「今度、家に一人で来てほしいの……」
働くバーで何度目かに会ったとき、その人は俺の耳元でそう囁やいた。
香水が甘い紫煙のように身体に纏わりつく。
「家に大きい熱帯魚がいるんだけど、主人がもう世話をしないから引き取って欲しいの。来週まで主人は家にいないから……」
俺は答えを保留し、バックヤードでこっそりとマスターに相談した。
マスターは小さな目を細めて、たるんだ頬を持ち上げた。
「 お前はもう成人だ。自分で考えて答えるんだ。あの水槽に魚を入れるのは全然構わないよ。そして客が一人や二人減ろうがお前は気にしなくていい」
俺は少し悩んだが、家に行くと答えた。
それを聞いたその人は、はじめてホールケーキを出された少女のように、瞳を輝かせた。
数日後の昼過ぎ、俺は大学をサボって、マスターから借りた車に大きな発泡スチロールの箱とエアーコンプレッサーを載せて、出発した。
初秋の空はからりと晴れていて、所々に引きちぎった薄い綿のような雲が貼り付いていた。
ハンドルを握る二十歳の俺の頭の中は、もらう熱帯魚の事よりも、その人と過ごす甘い時間の事で破裂寸前の風船のようだった。
その人は、背の高い無機質な門の前で待っていた。
薄紫色の花柄のワンピースを着て、少し恥ずかしそうに胸の前で小さく手を振った。
そして俺が両手で抱える大きな箱を見て、道端で咲く名の知らぬ花のように小さく微笑んだ。
外出するわけではないのに真っ赤な口紅をひいた唇が艶めかしく開いた。
「 迷わなかった?」
陽の光に照らされた彼女は、店の照明で見るよりも少しだけ疲れているように見えた。
その人に続いて、門をくぐった。
あまり手入れされていない庭を通り、導かれるがままに家の中へ入った。
日の当たらない玄関は薄暗く、急に肌寒く感じた。
室内を見渡した時、俺の頭を占めていた甘い期待は綿埃のように吹き飛んだ。
そしてここへ来たことを猛烈に後悔したのだった。
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