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### 芽ちゃんと大樹のお話

春の柔らかな陽射しが、森の地面を優しく照らしていました。
そこに、ぽこっと顔を出した小さな緑の芽がありました。名前は「めぐちゃん」。まだ生まれたばかりで、世界はすべてが新しくて、きらきら輝いて見えました。

すぐそばに、どっしりと根を張った大きな大きな木がありました。
幹は太く、枝は空高く広がり、葉は数えきれないほど。
この木は「千年さん」と呼ばれ、森で一番年長の木。もう千年の時を生きてきました。

めぐちゃんは、土から少しずつ体を伸ばしながら、隣の千年さんに話しかけました。

「ねえ、千年さん。大人になるって、どういうこと？」

千年さんは、そよそよと枝を揺らして、優しく答えました。
「ふふ、大人になるってね……まずは、ゆっくりと自分を伸ばすことだよ。太陽に向かって、少しずつ、少しずつ。」

めぐちゃんは首（茎？）を傾げました。
「でも、千年さんはもうとっても大きいよ。私もこんなに大きくなれる？」

「なれるよ。でも大きさだけが大人じゃないんだ。
春には新しい葉をいっぱいつけて、夏には濃い緑になって、秋には色を変えて、冬には葉を落とす……
四つの季節を、何度も何度も繰り返すこと。それが大人になることだよ。」

めぐちゃんは少し不安そうに言いました。
「葉を落とすの？それって、寂しくない？」

千年さんは、静かに笑いました。風が葉をさらさらと鳴らします。
「最初は寂しかったよ。でも、葉を落とすからこそ、新しい芽が生まれるんだ。
古いものを手放して、新しいものを迎える。それも大人の仕事だね。」

めぐちゃんは、じっと千年さんを見上げました。
「千年さんは、怖いこととか、悲しいこともたくさんあった？」

「たくさんあったよ。嵐で枝が折れたこともあったし、長い旱魃で水がなくて苦しかったことも。
でもね、そんなときどきに、根を深く張ったんだ。
見えない地下で、もっと強く、もっと広くな。」

めぐちゃんは、自分の小さな根っこを意識しました。まだ細くて短いけれど、確かに土の中に入っています。

「私も、根を深く張れるかな……」

千年さんは、優しく枝をめぐちゃんの方に少しだけ傾けました。
「張れるよ。誰もが最初は小さな芽だ。私も、君と同じくらいの大きさだったことがあるんだよ。
大切なのは、毎日少しずつ光を探すこと。雨が降ったらそれを飲み、風が吹いたらそれに揺れること。
そして、そばにいる仲間を忘れないこと。」

めぐちゃんは、ふと周りを見回しました。少し離れたところに、同じくらい小さな芽たちが、ぽつぽつと顔を出しています。

「私、ひとりじゃないね。」

「そうだよ。森は、みんなでできている。
君が大きくなったら、誰かの木陰になるかもしれない。
小さな虫が休めたり、鳥が巣を作ったり……
大人になるって、そうやって誰かの役に立つことでもあるんだ。」

めぐちゃんは、胸の奥がぽかぽかしました。
「千年さん、ありがとう。私、がんばるよ。ゆっくりだけど、ちゃんと大人になるよ。」

千年さんは、またそよそよと枝を揺らしました。
「楽しみにしているよ、めぐちゃん。
春が来るたびに、新しい君に会えるのが嬉しいんだ。」

それから月日が流れ、めぐちゃんは少しずつ背を伸ばしました。
まだ千年さんほどではないけれど、確実に自分の道を歩み始めました。

大人になるって、急ぐことじゃない。
毎日を生きて、季節をめぐり、根を張って、光を探すこと。
そして、いつか誰かの木陰になれること――。

森は今日も、静かに、優しく、芽たちを見守っています。

おしまい。