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おにぎり
それから二年が経った。
ルアは「エスカ」でNo.2まで登りつめ、
私は彼の背中を追いかけるように日々支え続けていた。
ルアの夢を応援している――
そのはずなのに、彼が笑っていると、
まるで自分まで“意味ある存在”になれたような気がする。
そんな歪んだ満足感が胸の奥に住みついていた。
⸻
ある夜、勤務しているバーで
芸能関係の仕事をしているという男性客が来た。
客「君、最近よく来てるホストの話してたよね?
俳優志望なんだって?」
「はい……その、ルアって言うんですけど。
本当に、誰よりも夢に向かってて……」
客「へぇ。ちょうどね、うちでキャスティングしてるドラマがあってさ。
イメージに合うかも。詳しく話したいんだ」
私は胸が高鳴った。
もしかしたら――本当に、ルアの夢が動くかもしれない。
客「連絡先、交換してもいい?」
「……はい!」
⸻
後日、その男から連絡が来た。
客『オーディションの話、ちゃんとしたい。
場所はホテルでもいいかな。込み入った話だから』
(どうしてホテル……?)
少しだけ引っかかったけど、
“芸能の世界って、きっとこういうものなんだ”と自分に言い聞かせた。
そして私は、ひとりでそのホテルを訪れた。
⸻
部屋に入った瞬間、空気が違うと感じた。
客「来てくれてありがとう。
正直に言うとね――あの役、オーディション飛ばして推薦できるんだ」
「す、すごい……!本当にルアにチャンスを……?」
客「ただし条件がある」
男はソファに座り、私を見上げるように言った。
客「俺と寝てくれたら、推薦する。
単純な交換だよ。どうする?」
その言葉が胸に深く突き刺さった。
頭では“おかしい”と叫んでいるのに、
心は別の方向へ転がっていく。
(ルア……夢、叶えたいって言ってた。
オーディションで落ちて悔しそうに笑ってた。
あの顔、もう見たくない……)
客「迷ってるの?君が決めていい」
――ルアのためになるなら……
私は目を瞑りながら暗闇の中で頷いた。
後日。
あの客からメッセージが届いた。
『推薦、通したよ。後はルアさん次第だ』
短い文章だったけど、私は胸をなで下ろした。
(本当に……夢が動いたんだ)
それだけで涙がにじんだ。
すぐにルアへ伝えたくなって、
私はそのままタクシーに飛び乗り、彼の家へ向かった。
⸻
部屋の前に着き、震える指でインターホンを押す。
しばらくして、寝起きのような顔でルアがドアを開けた。
ルア「ん……なに?こんな朝っぱらから……」
「ルア!聞いて、すごい話があって……!」
私は息を弾ませながら、必死に言葉を紡ぐ。
「この前話したお客さん、覚えてる?
ルアにピッタリなドラマがあるって言ってた人!
その人がね、推薦……通してくれたの!
ルア、本当にチャンスが来たの!すごいよ!」
ウキウキしていた。
自分の胸の奥にあった罪悪感すら、その瞬間だけは忘れられた。
ルアは少し瞬きをして、
そして――ゆっくりと表情を曇らせた。
ルア「……推薦?」
「うん!ほら、夢だったでしょ?俳優……!」
ルアは頭をかきむしるようにして、ふっと視線をそらした。
ルア「……もういいよ、俳優なんて」
「……え?」
ルア「もう目指してねぇんだよ。
俺、“エスカ”でNo.2になったんだぞ?
金も女も困らない。
なんで今さら地位捨ててまで、そんな不確かな夢追わなきゃならねぇんだよ」
「……そんな……だって、ずっと……」
ルアは苛立ったように声を荒げた。
ルア「お前、わかってんの?
俺がどれだけここまで来るために努力してきたか。
今が一番“勝ってる”んだよ。
夢とか、もうとっくにどうでもいいんだよ!!」
彼の怒鳴り声が、ぴしりと胸の奥まで刺さった。
(……どうでも……いい……?)
足から力が抜けて、
私はその場に崩れ落ちた。
「……じゃあ……私……なにしてきたの……?」
声に出した瞬間、喉が震えた。
何かが壊れていく音が、はっきり聞こえた気がした。
ルアはそんな私を見ても、ただ疲れたようにため息をつくだけだった。
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『幻のポケモン ルギア 爆誕』
【一緒に住んでいるから壊しては行けない。相手の世界。お前にはお前の。私には私の。それぞれの世界がある。】
時代の流れと共に、個人の時間。個人の世界観というものが、失われてきている気がする。協調性を重んじるあまり、個性や自尊心を持てない、自身の意見を持てない人が増えているように思えてならない。
自己中心的なのはどうかと思うけど、流されやすいのもどうかと思う。
そしてそれらを促してしまっているのは、他人にどう思われているか気にしてしまう弱い心。他人は他人。理解されようが、されまいが、あなたの人生を保証してくれる人なんてこの世に存在しない。
だったら他人なんて気にしてもしょうがない。
全て自己責任で、やりたいようにやった方が人生楽しいよ。誰かに抑制された人生よりよっぽどね。
私はそう思うし、そうしている。

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