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おにぎり

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溺れる深海魚④

それから二年が経った。
ルアは「エスカ」でNo.2まで登りつめ、
私は彼の背中を追いかけるように日々支え続けていた。

ルアの夢を応援している――
そのはずなのに、彼が笑っていると、
まるで自分まで“意味ある存在”になれたような気がする。
そんな歪んだ満足感が胸の奥に住みついていた。



ある夜、勤務しているバーで
芸能関係の仕事をしているという男性客が来た。

客「君、最近よく来てるホストの話してたよね?
  俳優志望なんだって?」

「はい……その、ルアって言うんですけど。
 本当に、誰よりも夢に向かってて……」

客「へぇ。ちょうどね、うちでキャスティングしてるドラマがあってさ。
 イメージに合うかも。詳しく話したいんだ」

私は胸が高鳴った。
もしかしたら――本当に、ルアの夢が動くかもしれない。

客「連絡先、交換してもいい?」
「……はい!」



後日、その男から連絡が来た。

客『オーディションの話、ちゃんとしたい。
  場所はホテルでもいいかな。込み入った話だから』

(どうしてホテル……?)
少しだけ引っかかったけど、
“芸能の世界って、きっとこういうものなんだ”と自分に言い聞かせた。

そして私は、ひとりでそのホテルを訪れた。



部屋に入った瞬間、空気が違うと感じた。

客「来てくれてありがとう。
 正直に言うとね――あの役、オーディション飛ばして推薦できるんだ」

「す、すごい……!本当にルアにチャンスを……?」

客「ただし条件がある」

男はソファに座り、私を見上げるように言った。

客「俺と寝てくれたら、推薦する。
 単純な交換だよ。どうする?」

その言葉が胸に深く突き刺さった。
頭では“おかしい”と叫んでいるのに、
心は別の方向へ転がっていく。

(ルア……夢、叶えたいって言ってた。
 オーディションで落ちて悔しそうに笑ってた。
 あの顔、もう見たくない……)

客「迷ってるの?君が決めていい」

――ルアのためになるなら……

私は目を瞑りながら暗闇の中で頷いた。

後日。
あの客からメッセージが届いた。

『推薦、通したよ。後はルアさん次第だ』

短い文章だったけど、私は胸をなで下ろした。
(本当に……夢が動いたんだ)
それだけで涙がにじんだ。

すぐにルアへ伝えたくなって、
私はそのままタクシーに飛び乗り、彼の家へ向かった。



部屋の前に着き、震える指でインターホンを押す。
しばらくして、寝起きのような顔でルアがドアを開けた。

ルア「ん……なに?こんな朝っぱらから……」

「ルア!聞いて、すごい話があって……!」

私は息を弾ませながら、必死に言葉を紡ぐ。

「この前話したお客さん、覚えてる?
 ルアにピッタリなドラマがあるって言ってた人!
 その人がね、推薦……通してくれたの!
 ルア、本当にチャンスが来たの!すごいよ!」

ウキウキしていた。
自分の胸の奥にあった罪悪感すら、その瞬間だけは忘れられた。

ルアは少し瞬きをして、
そして――ゆっくりと表情を曇らせた。

ルア「……推薦?」
「うん!ほら、夢だったでしょ?俳優……!」

ルアは頭をかきむしるようにして、ふっと視線をそらした。

ルア「……もういいよ、俳優なんて」

「……え?」

ルア「もう目指してねぇんだよ。
 俺、“エスカ”でNo.2になったんだぞ?
 金も女も困らない。
 なんで今さら地位捨ててまで、そんな不確かな夢追わなきゃならねぇんだよ」

「……そんな……だって、ずっと……」

ルアは苛立ったように声を荒げた。

ルア「お前、わかってんの?
 俺がどれだけここまで来るために努力してきたか。
 今が一番“勝ってる”んだよ。
 夢とか、もうとっくにどうでもいいんだよ!!」

彼の怒鳴り声が、ぴしりと胸の奥まで刺さった。

(……どうでも……いい……?)

足から力が抜けて、
私はその場に崩れ落ちた。

「……じゃあ……私……なにしてきたの……?」

声に出した瞬間、喉が震えた。
何かが壊れていく音が、はっきり聞こえた気がした。

ルアはそんな私を見ても、ただ疲れたようにため息をつくだけだった。

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こんな時代だからこそ見て欲しい。

劇場版ポケットモンスター
『幻のポケモン ルギア 爆誕』

【一緒に住んでいるから壊しては行けない。相手の世界。お前にはお前の。私には私の。それぞれの世界がある。】

時代の流れと共に、個人の時間。個人の世界観というものが、失われてきている気がする。協調性を重んじるあまり、個性や自尊心を持てない、自身の意見を持てない人が増えているように思えてならない。

自己中心的なのはどうかと思うけど、流されやすいのもどうかと思う。

そしてそれらを促してしまっているのは、他人にどう思われているか気にしてしまう弱い心。他人は他人。理解されようが、されまいが、あなたの人生を保証してくれる人なんてこの世に存在しない。

だったら他人なんて気にしてもしょうがない。
全て自己責任で、やりたいようにやった方が人生楽しいよ。誰かに抑制された人生よりよっぽどね。

私はそう思うし、そうしている。
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