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天月 兎

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サフラン色の栄光──不滅より終焉を贈るまで
第二十一話 前編

戦場から帰国した翌日、テフヌト族と同盟を結び、族長を連れて第一王子のヴィリディスが帰城した。
テフヌト族はサフラニアの南東にその領地をもつ部族だ。自然の恵みも、災害も、全て精霊からの贈り物として尊ぶ。自然を愛し、自然と共に歩む彼らは、魔族にその全てが侵されるのを是としなかった。
かつては魔族との交戦で同盟を結んでいたこともあり、再同盟の話はスムーズに進んだ。
また、文化的に口伝にはなるが、自分達の持つ知識が何かしらの役に立てるかもしれないと、族長自ら来国してくれたらしい。
ルーヴェリアからの報告で、北西諸国も交えて魔族に対する知識の共有の場を作ることになった。
場所はアルゼト小国の西にあるメレンデス小国。
アルゼト小国同様、ゼーレース海沿いに位置する国で、サフラニア王国の現王妃の出身国でもある。
魔族に関して記述のある本は本来持ち出し厳禁の禁書だが、この際云々と言ってはいられないとルーヴェリアの言もあり、王国から多様な歴史書がメレンデス小国へと運ばれていった。
本と共に向かったのは、ヴィリディスとその護衛騎士のケイン、テフヌト族の長だ。
ルーヴェリア達も向かうべきではあったのだが、いつ魔族側が動くか分からないため、周辺を離れることが出来なかった。
彼らが出立し、静けさを取り戻した謁見の間で、国王はルーヴェリアに問うた。
国王「良いのか。あの本にはお前の名も刻まれている。……その身のことが知れたら」
折角彼女を認める者が出てきたのに、かつてのように化け物と蔑む者が現れるのではないかと案じているようだ。
ルーヴェリア「構いません。魔族の力は強大です。それは、一夜にして滅び去ったラシェクス小国が物語っています。もし、私を軽蔑し、諍いが起きたなら、この地はそれまでということです」
人間同士で争っている場合ではない時にそんなことが起きたら、確かにこの世の終わりだろう。
国王「もしそうなったら、お前は軽蔑する者としない者、どちらの側に立つ?」
は。愚問だ。何故そんなことを問うのだろう。
此奴は愚王なのか、自分がどれだけの時間をこの国で過ごしたと思っているのか。
思考回路がどうなっているのか確かめてみたいものだ。
と、少し頭に血が昇りかけたが、一呼吸おいて落ち着かせる。
ルーヴェリア「どちらがどちらだろうと関係ありません。私はこの国の騎士です。初代国王に騎士の称号を賜ってから、この命が尽きるまで。私はこの国の騎士として生きる所存です」
国王は安堵したように息を吐く。
彼女の偉大さを知るからこそ、心の片隅にあった、もし彼女が敵に回ってしまったらという不安から出てしまった問いだった。
国王「すまない、お前を愚弄してしまったな」
ルーヴェリア「謝罪は必要ありません。恐らく、誰もが一度は考えることでしょうから」
そう言って、彼女は謁見の間を出ていく。
国王はその背中をただ黙って見ていることしか出来なかった。

ルーヴェリアは自室に向かっていく。
魔術棟からの報告書や、各地の状況を宰相に纏めてもらったものを読まなくてはならない。
その時、いつもより軽装のシエラとすれ違った。
アドニス専属の侍女だが、今は侍女というより…戦場に立つ看護兵と同じような装いをしている。
シエラ「ルーヴェリア様、お疲れ様です」
ぺこりと頭を下げる彼女に、ルーヴェリアも挨拶を返した。
ルーヴェリア「……戦場に立つのですか?」
シエラはこくん、と頷く。
シエラ「アドニス様が戦場に向かわれることが多くなった今、侍女としてお世話することが出来ませんから…私なりに、考えたんです」
自分に出来ることをしたい。
国や民を守るアドニスや、騎士達のために、何か役に立ちたいと思ったそうだ。
どうやらシエラは多少ではあるが治癒術を扱えるらしい。
それを活かせると考えてのことだと。
ルーヴェリア「…そうですか……死地へ向かう覚悟はあるということですね」
シエラ「はい。いつか、ルーヴェリア様は仰いましたね。死んでは何も守れないと。だから私は死なせない立場に立つと決めたのです」
そういうことなら、否定することは出来ない。
アドニスの立場から考えれば城にいてほしいのだろうが、シエラの覚悟や思いを否定することは彼にも出来ないだろう。
ルーヴェリア「分かりました。健闘を祈ります」
シエラ「はい!」
そうして二人はそれぞれの行き先へと向かっていく。
さて、自室に着いたルーヴェリアは机に積み上がった書簡を見て早速嫌な予感を覚えた。
この量、間違いなくウェス・トリステス全域で発生した事案だ。
一つずつ中身を見ていくと、嫌な予感は的中していた。
地方全域で、農作物の不作、家畜の不審死、天候の悪化が相次いでいる。
更に、犯罪に手を染める者も増えているようだ。
ルーヴェリア(日頃の鬱憤からか、或いは何かしらの魔族が関与しているか……植魔であればただの一般人の心を操ることなど造作もないはず…)
本格的に、魔族側が動き出していることは明白。
魔術棟からの報告書には、不自然に魔力が集結する箇所も散らばっており、過去の記録のように小さな魔獣が通れるほどのゲートは頻繁に開いているともあった。
地方全域に、警戒態勢を訴えなくてはならない。
ルーヴェリアは文書をしたため始めた。
だが、その文書に対して返事が返ってくることはなかった。
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