真矢みきから「あきらめてー」と言われた 何があった?

とし

紅葉

ただくまー
真矢みきの声が響いた瞬間、僕は電車の窓に映る自分の顔を見つめていた。隣の席のサラリーマンがスマホでゲームをしている。画面では小さなキャラクターが延々と同じ動作を繰り返していた。まさにあきらめの境地である。
しかし僕があきらめるべきは何だったのか。恋愛か、仕事か、それとも昨日買ったパズルの残り三百ピースか。思考がまとまらないまま、電車は次の駅に着いた。降りる人、乗る人、窓の外を眺める人。みんな何かをあきらめているように見える。
改札を出ると、コンビニの前で中学生が缶コーヒーを飲んでいた。「これ苦すぎない?」と友人に言っている。大人になるということは、苦いものに慣れることなのかもしれない。あるいは、苦さをあきらめることか。
帰宅して冷蔵庫を開けると、賞味期限切れのヨーグルトがあった。食べるか捨てるか。これもまた、あきらめの選択肢だった。結局食べた。特に何も起こらなかった。
夜中にふと目が覚めて、真矢みきの声を思い出した。あきらめてー、と。でもよく考えてみると、彼女は僕に向かって言ったのではなかった。テレビの向こうで、ドラマの中の誰かに向かって言っていたのだ。
つまり僕は、最初から当事者ですらなかった。
翌朝、パズルの残り三百ピースを見つめながら、僕は結論に達した。あきらめるべきは、何かをあきらめなければならないという強迫観念そのものだったのだ。そう思った瞬間、なぜかパズルの最後のピースがぴったりとはまった。
完成した絵は、真矢みきが微笑んでいる写真だった。


じゅんや

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