「運転手さん。前の車を写生した絵がこちらなんですけど、見ていただけますか?これを描いたのはそう、17年前。私が上京してきた日の事なんですがね、二浪していた私は、先に都内で一人暮らしを始めていた友人の家を訪ねることになったんです。ええ、確か池袋で降りて、西口公園でしたでしょうか…東京芸術劇場が隣接しているのですが、当時そこに、ものすごく急で、とてつもなく長いエスカレーターが備えられていたことに衝撃をおぼえました。不安症も抱えておりましたので、そのエスカレーターに一歩足を踏み入れることを想像するだけで眩暈がしました。気分が優れなくなった私は、西口公園のベンチに腰掛けました。そして心身が回復するのを待ちました。程なくして友人からメールが届きました。あと30分ほどでここに着くので、そのままじっとしているようにとのことでした。手持ち無沙汰であった私は、カバンからメモ帳サイズのスケッチブックと鉛筆を取り出しました。そしてすぐ側に止まっている、緑色のバスを描き始めました。そうです、国際興業のバスです。その時の絵がこちらです。どうです?よく描けているでしょう?」運転手さん「ちょっと今危ないです」