「 月が綺麗ですね、ところでこうして眺めていると、夏目漱石のあの有名な意訳が、いかにこの情景を完璧に捉えているかがわかります。愛の告白という非常にパーソナルな感情を、天体という究極的に無関心で普遍的な対象に託すという、あの湿度ゼロのロマンティシズムですよ。」「ところで、あなたは今の月を見て『綺麗』と感じましたが、今の月齢がいくつで、輝面率が何パーセントかご存知ですか? 正確には、今夜は新月を過ぎてから約10日目ですから、月齢はおよそ10.4、輝面率は78%といったところでしょう。満月手前の、あの影と光のコントラストが最も際立つ、クレーターの凹凸が最もエモーショナルに見える絶妙な時期なんです。」「そして『綺麗』という言葉が、この巨大な天体が、地球に対して常に同じ面を向け続けるという、潮汐ロックという現象によって成立している事実を考えると、また感慨深いものがあります。」