高度10万メートル。酸素なんてとっくに足りていない。気圧も地上の0.001%くらいだろう。でも、私は意外と平気だった。「落ちる」という行為に、人間の体は案外慣れているのかもしれない。 最初の1分。時速約1,200キロメートルで落下する。音速を超えているから、風切り音すら聞こえない。空気がうすすぎて、まるで宇宙空間にいるみたいだ。でも、ちゃんと地球は下にある。青い惑星が、刻一刻と大きくなっていく。 高度5万メートルを切ったあたりから、大気が濃くなってきた。時速は700キロメートルくらいまで落ちる。やっと、風の音が聞こえ始めた。雲を突き抜けるたび、水滴が顔を叩く。痛いというより、くすぐったい。 地上1,000メートル。パラシュートなんて開かない。それが、今回のルールだ。終端速度の時速200キロメートルで、アスファルトに向かって突っ込んでいく。普通の人間なら、即死は確実だ。でも、私には秘策があった。 着地10センチ前。私は全身の筋肉を限界まで緊張させ、両足で地面を受け止めた。衝撃は4,000G以上。アスファルトが凹み、ひび割れが放射状に広がる。膝は90度まで曲がり、背骨は「S」の字を描く。でも、私は耐えた。今年一番の衝撃に、「やれやれ」と言おうとしたが、声が出ない。肺が潰れかけているからだ。でも、大丈夫。数分後には治る。そういう体質なのだ。そう、ただそれだけのこと[照れる]