
箱がある

箱がある


箱がある

箱がある
もっとも美味しいところから
食べ始めてしまうのか
それともただ私たちの
舌が肥えてしまっただけだろうか
どちらにせよ
もう二度とは味わえないのだ
永遠の一日も、破滅の甘美も、忘我の情事も

箱がある

箱がある
ついぞ願ったことはありませんでした
私はただ
恐怖したくないと願ってきたばかりです

箱がある
風に故郷はない

箱がある

箱がある
いっぱいとなるたびに
自然が僕に命ずるのです
私を美しく見よ、と

箱がある

箱がある
誰そ彼の近づくほどに紅くなる

箱がある

箱がある
微風は私の頸筋にキスをする

箱がある
どんな物語よりも魅力的で
どんな神話よりも示唆に富んでいる

箱がある
振り返ればそこに貴方がいて
瞼を閉じて仰げども
見ることができるもの

箱がある
僕らは僕らの弱さを暴露する
そんな時代を精神は生きて
あの時から変わらないのは身体
海鳴れば理響かん海の子よ
星降れば命振るわん星の子よ
帰るべき場所などとうにないのだ
さればこそ僕らの憂いに季節こそ巡れ

箱がある

箱がある
そう長くは続かないようにできていて
それでもこの長い冬を越えればきっと
僕らの頬を撫でるこの風は
またあの草花を揺らすだろう

箱がある
進め その道の続くかぎり

箱がある
人とはいつか必ず死ぬもので
人はいとも容易く死ぬものだと
そういうことが僕の心と身体に馴染んできた
だから今はもう悲しみを
悲しみそれ以上として受け取ることも
それ以下として受け取ることも僕はしない
穏やかな悲しみの中で全てを眺めていたい
決して目を瞑ることなく

箱がある
僕はまた少しだけ君を忘れずにいれるだろう
君が見たものとは君しか見てないもの

箱がある
そんなこと大したことではないんだから
君が生きていたってことを
僕が覚えていられるなら
それはこの宇宙のどんな物事よりも

箱がある
これがどんな意味かは分からない
それにたぶん分かりたくもない
でも僕は僕しか生きれない
これはきっと間違いない

箱がある
こんなものだったのか
生きるとは
逝きし友あり
呑む酒もあり

箱がある
今生きていることともう生きていないことに
そんなに大した違いはない

箱がある
それはまるで
誰も代わりに死んではくれないように

箱がある

箱がある

箱がある

箱がある
僕が生きた証よりも
僕が生きようとした証

箱がある
死ぬそのときまでは生きていようと
眠りつく人は眠りたいから眠るのか
それとも眠たくなったから眠るのか
僕は今少しだけ眠りたい

箱がある
だからこそ、僕たちにできるのは
ただそれをどう引き受けるかだけなんだ

箱がある

箱がある
哲学は意味や主体、態度をよって人生を語ることで私に人生を生きる力強さを授けてくれる

箱がある
私たちは死んでいることと同じじゃないか

箱がある
なんて表現は
半分本当だけど半分嘘なんだ
止まってるのは時間じゃない
止まってるのは心だけなんだ
心は止まってるのに
身体は時間の中にあるんだ
その差異が苦しいんだ
私という思考や感情が
心と身体とに引き裂かれてる
二つは異なる場所にあるみたい
ブサイクなんだ、チグハグなんだ
身体はこんなにも生きていて
早く前に進めよって
そう痛いほど身体が僕に急かすたび
あぁまだこんなところいるって
そう痛いほど心は僕に愚痴をこぼす
もう一度二つをあるべき場所へ
もう一度二つを会うべき場所へ
そんな手段を僕は一つだけ知っている
そう知っているけれど
いるけれど
あとは勇気の問題だ
覚悟の問題だ

箱がある
そんな人がいるんなら君は大丈夫だね

箱がある
もう死んだって構わないね
誰かを本気で愛したんなら
死んだらダメなんだけどさ

箱がある

箱がある

箱がある
結局のところ思い出だけが帰る場所だって

箱がある

箱がある
どんな思い出もいつか忘れちゃうんだ
素晴らしい思い出も
クソみたいな思い出も、全部ね

箱がある
手を伸ばしたら掴めそう
背伸びをしたら届きそう

箱がある
一途にさせた人が凄いんだと思うよ
一途にならざるを得ないだけなんだから

箱がある

箱がある
誰かを本気で好きになることなんて

箱がある
忘れたいことばかり忘れずにいる

箱がある
ってね

箱がある

箱がある
