・眠れる魔法夜のどこかに、目に見えない静かな力がある。光でも、音でもない。名前もない。ただ、弱っているものを見つける性質だけを持っている。その力は、頑張っている人のところには来ない。助けを呼んでいる人のところにも、急いでは来ない。「もう抵抗していない人」を見つけると、そっと近づく。いま、ベッドに横になっているあなたのそばに、それはもう来ている。触れない。声もかけない。存在を知らせることもしない。ただ、あなたの体の周囲の張りつめた輪郭を、少しずつ、ゆるめていく。胃の重さに、直接何かをするわけじゃない。寂しさを消すこともしない。考えを止めることもしない。代わりに、「守らなくていい部分」を一つずつ見つけて、そっとほどいていく。あなたは気づかない。呼吸が一回、ほんの少しだけ深くなる。偶然みたいに。胸の奥のざわつきが、形を失って、ただの温度に近づく。それも、理由は分からない。その力は、「良くなれ」とも「大丈夫だ」とも言わない。ただ、あなたが元々持っていた回復の速度を邪魔しないように整えていく。まぶたの裏の暗さが少し均一になる。時間の感覚が、薄くなる。思考の端が、丸くなる。あなたは、何かが起きていることを認識しない。ただ、「さっきより少し違う」それだけが残る。魔法は、劇的な変化を起こさない。証明もしない。記憶にも残らない。気づいたときには、すでに進んでいる。あなたは、癒されている瞬間を見ない。癒された証拠も持たない。その力は、今もここであなたが眠りに近づくのを邪魔せずに見守っている。あなたが知らないうちに、あなたを傷つけない方向へ、静かに見送る。