
夜を拾うひと
誰にも見せられない夜を、
言葉に変えて、そっと置いていく。
collecting nights, quietly.
夜
月
静かな時間
哲学
心のこと

夜を拾うひと
胸が苦しくなる
現実に向き合いながらも
あなたのそばにいたいと思ってしまう
ずるい私が、まだここにいる。


夜を拾うひと
会えたはずなのに
静かに虚しさが残った


夜を拾うひと
少しだけ
あなたを想うたびに
胸の奥がきゅっと痛む
近づきたいのに
近づきすぎたら
もう戻れなくなること
わかっているから
名前のないこの関係を
壊したくなくて
ほんとうの気持ちは
まだ言えないまま


夜を拾うひと
あなたのいない朝に
残っているのは
昨日の笑い声だけ
静かな部屋の中で
コーヒーの湯気が
ゆっくり消えていく


夜を拾うひと
会っているときだけ
世界がやわらかくなる
触れなくても
指先まであたたかくて
それだけで
充分だと思えた


夜を拾うひと
会えない時間のほうが
長いのに
心だけは
いつも隣にいる気がした
約束のない日々の中で
それでも
また会えると
信じてしまう


夜を拾うひと
ほんの少しの嘘が
世界をやさしく見せてくれる夜がある
それでも朝には
正直になれると知っているから


夜を拾うひと
長い夜のあと
ただ静かに
心が戻ってくる場所がある
それを愛と呼ぶのかもしれない


夜を拾うひと
眠りの中で
言葉にならなかった思いが
小さく息をしていた
朝が来るたび
それが形になっていく


夜を拾うひと
触れたあと
何も言わなかった
その沈黙に
名前のないぬくもりが
ゆっくりと残っていた


夜を拾うひと
半開きの扉から
光がこぼれた
ただ1歩
静かに
世界が変わった


夜を拾うひと
何日もあったはずなのに
重なったのは
たった1日だけ
それだけで
世界が少し
静かに息をした


夜を拾うひと
寒い日だった
湯気の向こうで
彼はただ
「大丈夫?」とだけ言った
触れない優しさが
いちばんあたたかかった


夜を拾うひと
逢うたびに
触れないことが
やさしさのように思えた
言葉の間に
ぬくもりが宿って
それだけで 満たされていた
いつしか
沈黙さえ 愛の形になっていた


夜を拾うひと
何もしていないのに
世界がやさしく見えた
光がカーテンの隙間からこぼれて
胸の奥まで届いた


夜を拾うひと
コーヒーの湯気に
光が溶けていくのを見た
それだけで
今日が少し
やさしくなる気がした


夜を拾うひと
画面の光よりも
彼の目の奥の光のほうが
少しだけ、まぶしかった


夜を拾うひと
彼も私を本名では呼ばなかった
けれどその呼び方が
いちばん優しかった


夜を拾うひと
深夜になるのを
いつも待っていた
彼の声が届くたび
眠りの手前で 心が灯った
物静かで
なのに 笑うと
世界が少し明るくなる
画面の光が
波のように揺れて
その向こうに 彼がいた
ほんの少しの時間だったけれど
それだけが
一日のやさしい場所だった

