
もとトミー
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もとトミー
岩場から脚を降ろして見える川床は、川そのものが一匹の魚であるような鱗の形にその底をたもち、わたしがここにいてすぐには分からない、変化をやめない。変化。ここには無窮の変化が常になっている。春の太陽はまぶしく、またおだやかに川面にたわむれ、水底の砂のうえを滑ってゆくあかるい光の糸が、くりかえしわたしの気持をほどいてくれる。
ここであなたのことを思うということはわたしの時間の、このひとときが、あなたからの了解の時として常にあなたに戻ってゆく。斜めに倒れた杙のさきが、川のなかから揺れる水面にふれてすぐに流れに消えてゆく波紋を打っている。どうしてもわたしはあなたに向かわないということがない。
受けつぐ。受けつがれる。いのち。いのちの流れ。流れはその勢いとひろがりをもって下ってゆく。わたしはやすらいでその移行を、それもまたあなたの動きとして耳のなかでも聴くことができる。われわれはたしかに言葉をもつが、その底のいのちの流れはそのままに、常としてある。
ふたつの岩陰のあいだをまた魚が行き来している。魚は流れのなかにいて、身に知ってその動きにしたがい、さからい、とどまることがあった。


もとトミー

もとトミー

もとトミー

もとトミー
I celebrated my mother's life
as she was discharged
from the hospital
a deep autumn breeze
mingled with the scent of yuzu


もとトミー

もとトミー
the lump
前途への望みは尽きて尽き果てて空なる思ひに湧き出でるかも
for the road ahead
hope has run its course
it’s all gone
to empty thoughts
may spring forth
冬晴れの寒さ虚しさ南天の実のあかあかと我が灯火のごと
the cold and emptiness
of winter Sunshine
heavenly bamboo seeds
brilliantly
as if it were my own lamp


もとトミー
カナコは煎ったひまわりの種子を奥歯に噛みながら、この国には詩人がいないと口ずさんだ。彼女はバルコニーの塀に肘を着いてまた溜息をついた。この高層ビルの上階から見える景色はまるで墓場だと彼女はその種子を齧った。
カナコは花瓶に活けた首垂れたひまわりから一粒の種子をとって、まるで御守りのように首にかけたロケットのなかにしまいこんだ。彼女が好んだ白いシルクのシャツに銀のロケットが輝いた。彼女の近くにゆくと気流が渦を巻いたようになるのはおそらくそのせいだろう。
カナコはロケットに触れながら世界の何処に行けば詩が生まれるんだろうと呟いた。この疫病はいまに始まったことではないのよと彼女は胸のロケットに掌を当て地上を見下ろして思った。
狂った人の心を正気へと導く一粒の種子。狂ったこの世に信じられるものがあるとすればそれは一粒のひまわりの種子だけだとカナコは日記に書き残した。彼女は走り高跳びの選手さながらバルコニーの高めの塀をクリアした。
地上に叩きつけられるまでしばらくのあいだカナコは宙を漂った。彼女の首にかけられたロケットが彼女より浮きあがってその一点で空を支えた。この墓場だらけのこの世が一斉にひまわり畑になってすべてのひまわりが真実の太陽の位置を示していた。
2020/07/19


もとトミー
ひとつの奇声。翼あるものをおびきよせるために仕掛ける生き餌。魂の淵から獲ったばかりの一匹の魚。かつて切った糸を結びなおし、結び目を指で確かめてゆく。記憶の網。はてしなく広い壁に向かって木造りのちいさな椅子を置く。そこに坐っていることの、身体の痺れた痛みによってかろうじて私はある。かろうじて。
壁に向かって折れ曲がった私の影。吊られている記憶の網の影。仕掛けられた生魚の影。ひとつの奇声。翼あるもののひとつの奇声を待つ。舞い降りるものを待つ。足元を流れてゆく冷ややかな水。凍える真夏。消え失せろ、ボロガラクタの塊よ。
口実の囮。口実の獲物。そうしてでもしたたかに生を繋ごうとするものが私の中にいる。幻の翼が時間に萎れた私のなかで羽撃きの音を立てる。私は一匹の獲物として吊るされる。不恰好に椅子に腰掛けたまま。


もとトミー
この異常な暑さのために花は美しく開かなかった。武器工場や科学工場が爆撃され、その塵埃は大気圏を薄くしていた。紛争は後を絶たなかった。民間人でさえも殺害されたが、他の穏やかな地域で人々は能天気に口笛を吹いて、その夜も何事もないかのようにその日を仕事に過ごした。
正しい人たちはもはや詩を書くことをやめた。歴史の頁は書かれることも読まれることももはやないと判断されたからだ。悪しき者とそれに否という者だけが尽力して紛争をつづけたが、人類が破滅へと向かっていることは否定できなかった。見えることのない破滅は花の凋落に現れていたというのに、人々は今日の個人的利権のために奮闘することしかなかった。
誰かが空が落ちてくると言っても、もうわれわれには止める術がなかった。個人的な享楽に人々は余念がなかった。人類は破滅に向かっているのに人々は目先の利益を求めて止まなかった。人々は今日も他者を足蹴にすることに始終するばかりだった。あからさまな悪意だけが人々の念頭にあった。
心の平安のために人々は慰めをカルトに求めた。カルトの主人は今日も金の算段に余念がなかった。馬も犬も猫も品種改良されてもはや予言する能力を欠いていた。歴史はあらたな頁をめくることなく、突然閉じられた。
生き延びようとする人々が門の前に押し寄せたが、門の外にいるものも内にいるものも時間は残されていなかった。人類の死によって歴史の頁は閉じられ二度と開かれることはなかった。


もとトミー
purple stamens
桜咲く亡父の書斎の机拭く
cherry blossoms
wiping down the desk
in my late father's study
花房の白き花には紫の蕊
purple stamens
on each white cherry blossom
in clusters of flowers
花咲きてヘアピン直す女かな
cherry blossoms in bloom
woman arrenging
hairpin


もとトミー
purple stamens
桜咲く亡父の書斎の机拭く
cherry blossoms
wiping down the desk
in my late father's study
花房の白き花には紫の蕊
purple stamens
on each white cherry blossom
in clusters of flowers
花咲きてヘアピン直す女かな
cherry blossoms in bloom
woman arrenging
hairpin


もとトミー

もとトミー
聡明な王子がいた。門からいたずらに外に出て世間というものを知ってから彼は苦行を重ねた。肉体の痛みで心の痛みを和らげる日日がつづいた。
心の痛み。彼はそれが何なのかいつも考えていた。そこで彼は確かに自分が思考していることに気づいた。彼は思考を止められれば心の痛みはなくなるのではないのかと思った。通りがかりの女の手にのせられていた乳白色の皿から彼は腐った乳粥を飲みほした。
大きな樹のもとに彼は静かに坐って自分の心の動きを観察した。思いが次つぎと湧いて出ては変わっていった。過去のこと、現在のこと、未来のこと。思いは駆けめぐってまた変わってゆく。彼はその思いを完全には止めることができないことを知った。
彼が何か思いに捉まると姿勢が崩れた。彼は何度も姿勢を正した。呼吸が彼の胸をふくらませた。汗が彼の顎から滴ってその胸を湿らせた。彼は自分の脳の思いで呼吸しているわけではないし自分の思いで心臓を動かしているわけではないのだと気がついた。私はこの脳の思いだけをすべてだと思っていたのだ。私の思いはこの自分の命のすべてではないのだ。
私の脳がする判断や分別。有無、迷悟、信不信、幸不幸、愛憎。すべて脳の分泌物というだけにすぎない。それならこの両者はともに脳だけの思いにすぎない。私の脳は私の一器官であって私の全体ではないのだ。
私にとって私の命がもっとも貴重なものだ。私の命が絶対ならば自分が生きているかぎり覚知するすべてのものが命なのだ。この自分が命なら私が出会うところすべて命なのだ。どんな苦しみがあったとしてもそれは自分が、命が、あるからなのだ。苦しみは苦しみだけ。辛いのは辛いだけだ。
平等であって優劣のつけられないそれぞれの命、すべての命。他の人びとはそれに気づかないだけなのだと彼は知ったのだ。大地に腰を落ち着けてじっと坐る彼の頭上で五月の風が大きな菩提樹の葉をことごとく揺らしては去った。


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