
ろ

ろ
少女ミアは、事故で声を失った日以来、人前に出ることをやめてしまった。
声だけでなく、歌うことそのものが怖くなってしまったからだ。
そんな彼女が、ある雨上がりに森の奥で不思議な光を見つける。
光の筋を辿るように進むと、そこには見知らぬ“花彩命の庭”が広がっていた。
庭の花は、風が触れるたびに小さな音を奏でた。
赤は柔らかなバイオリン、青は深いオルガン、黄色は軽いベルのように響く。
ミアは花の音に導かれるように歩き、庭の中心の大きな木に触れた。
その瞬間、庭全体がひとつの“歌”になった。
音が彼女の体を包み込み、失われた声の代わりに心の奥の震えが響きだす。
涙が頬を伝うと、ミアの胸から小さなハミングがこぼれた。
それは声を失って以来初めての、自分の音だった。
庭はゆっくりと色を変えながら、ミアのハミングに合わせて歌った。
彼女はそこで知る──「歌は声だけではない」ということを。
帰り道、ミアは声を取り戻したわけではなかったが、
胸の奥に確かな“音楽”が戻っていた。
そしていつかまたこの庭に歌を届けようと、小さく笑った。

ろ
庭の奥の廃屋には、花でできた小さな子どもが住んでいた。彼は春になると外で楽しそうに踊った。

ろ
迷い込んだ少年が見つけたのは、母の笑顔にそっくりな花だった。思わず抱きしめ、涙がこぼれた。
