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太郎さん

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第9回歴程新鋭賞受賞。谷川俊太郎、高橋源一郎らから名前消される。2019アラブ語圏から俳句集を四冊出版される。ゴールデンプラネット賞受賞。文学博士を授与される。インド、ギリシア、イタリア、南米、イギリス、アメリカ、台湾、韓国、スペイン、バングラデシュその他の雑誌、新聞に掲載される。現在神戸市在住。
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聡明な王子がいた。門からいたずらに外に出て世間というものを知ってから彼は苦行を重ねた。肉体の痛みで心の痛みを和らげる日日がつづいた。

心の痛み。彼はそれが何なのかいつも考えていた。そこで彼は確かに自分が思考していることに気づいた。彼は思考を止められれば心の痛みはなくなるのではないのかと思った。通りがかりの女の手にのせられていた乳白色の皿から彼は腐った乳粥を飲みほした。

大きな樹のもとに彼は静かに坐って自分の心の動きを観察した。思いが次つぎと湧いて出ては変わっていった。過去のこと、現在のこと、未来のこと。思いは駆けめぐってまた変わってゆく。彼はその思いを完全には止めることができないことを知った。

彼が何か思いに捉まると姿勢が崩れた。彼は何度も姿勢を正した。呼吸が彼の胸をふくらませた。汗が彼の顎から滴ってその胸を湿らせた。彼は自分の脳の思いで呼吸しているわけではないし自分の思いで心臓を動かしているわけではないのだと気がついた。私はこの脳の思いだけをすべてだと思っていたのだ。私の思いはこの自分の命のすべてではないのだ。

私の脳がする判断や分別。有無、迷悟、信不信、幸不幸、愛憎。すべて脳の分泌物というだけにすぎない。それならこの両者はともに脳だけの思いにすぎない。私の脳は私の一器官であって私の全体ではないのだ。

私にとって私の命がもっとも貴重なものだ。私の命が絶対ならば自分が生きているかぎり覚知するすべてのものが命なのだ。この自分が命なら私が出会うところすべて命なのだ。どんな苦しみがあったとしてもそれは自分が、命が、あるからなのだ。苦しみは苦しみだけ。辛いのは辛いだけだ。

平等であって優劣のつけられないそれぞれの命、すべての命。他の人びとはそれに気づかないだけなのだと彼は知ったのだ。大地に腰を落ち着けてじっと坐る彼の頭上で五月の風が大きな菩提樹の葉をことごとく揺らしては去った。
         
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叛骨といふ言葉の似合う梅ヶ枝や花くれなゐに点々として
the word "rebellious"
fits the branches
of the plum tree
flowers are dotted
with crimson
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捨てられし事務椅子のうへ春の霜
on an abandoned
office chair
spring frost
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アルジェの新聞にインタビューが掲載されました。
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春の星空にかがやき輝かぬ我の言葉に光欲し
shining
in the spring starry sky
I want the light to shine
on my words
that do not shine
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春の宵紺に拓けし空なれどわが落胆は宙吊りの鉛
spring evening
though the sky is
pioneered in navy blue
my disappointment is
lead suspended in midair
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春の朝壁に当たりぬ陽の強さ
spring morning
the strength of the sun
hitting the wall
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横笛
flute


秋月の光を胸に起ちあがる
I rise up
with the light of the autumn moon
in my heart
 
少年の横笛かなし終戦忌
boy's flute
sadness
memorial to the end of the war
 
わが命強く信じる秋の月
I strongly believe
in my life─
autumn moon
 
野分前こころひとつに定まらず
before the typhoon
unable to settle
in one mind



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春の雨亡父の魂の活字ごと『さらばレフ・トルストイ』に遺されし

spring rain
the entire typeface
of my late father's soul
is bequeathed in
"Farewell Lev Tolstoy".

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人生について 
 
永遠の無から生まれて永遠の無に戻ってゆく。その一時の生の認識を人生と呼ぶ。群猿の屑文化のなかで右往左往とすることは何もない。
 
一人の認識をこの世と呼ぶとき、この一人の認識の終わりは世界の終焉である。そして永遠の無に戻ってゆく。前世も後世も人間の妄想に過ぎない。
 
この世は生まれては死ぬという意味で平等である。理想主義でも現実主義でもない。苦しい人生を送ってきた者は死という幸福に恵まれ、楽しい人生を送ってきた者は死という不幸に死んでゆく。
 
何も持たずに生まれてきて何も持たずに死んでゆく人生に何を求めることがあるだろうか。幸せとは脳に思い描いたことが現実化するということに過ぎない。幸不幸は人生に関係がない。
 
脳という器官はいくつかの誤った判断を持っている。自分を観察者として他を比較することに騙される。他と常に比較し比較される。また死んでからも認識が残っていると思っている。名前を残しても死んだ当の本人には関係のないことである。最後に脳は自分の死を考えられない。なぜなら脳もバイタリティだからだ。バイタリティはバイタリティがなくなる状態を考えられないのは当然だ。これらは脳という器官のトリックでしかない。
 
世界ではネガティブよりポジティブに生きる方がいいというが、何を血迷っていのか。ただすることだけをすればいいだけである。もちろん幸福に感じる時も不幸に感じる時もあるというだけのことでしかない。しかし、これは実際の人生に関係ないことである。承認欲求って他者から番号振ってもらって喜ぶバカもいる。一時の人生を生きていることだけ十分だ。人生は一時の夢でしかないのだから。
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ロザリオの村
 
馬具を外されてその馬は青ざめた。ロザリオが馬の口元に秣と水を持っていってもまるで拒むかのようにそれを飲み食らうことはなかった。子供たちがいつものように村を走り回っていた。
 
うかれた若者たちが赤いスポーツカーでやって来てその村の井戸の水を飲み荒らした。そのあとロザリオが下ろした釣瓶が井戸の底で砕ける音がした。ロザリオたちは一冊の本と多くの衣類と残りの食料を馬車に担ぎ込んだがどこもかしこも昼は極暑、夜には雪が降った。
 
村に戻って来たロザリオの食卓に皿が一枚配られた。凍てついた生の最後の芋を暖炉の火で炙って食べたあとの苦い時間さえ止まった。沈黙の皿をまえにしてロザリオは窓の外を眺めた。ふぶきやむことのない灰色の雪が死の音楽になるまで時間は必要なかった。
 
 
参考 タル・ベーラ監督作品『ニーチェの馬』
                   
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捕獲
 
ひとつの奇声。翼あるものをおびきよせるために仕掛ける生き餌。魂の淵から獲ったばかりの一匹の魚。かつて切った糸を結びなおし、結び目を指で確かめてゆく。記憶の網。はてしなく広い壁に向かって木造りのちいさな椅子を置く。そこに坐っていることの、身体の痺れた痛みによってかろうじて私はある。かろうじて。
 
壁に向かって折れ曲がった私の影。吊られている記憶の網の影。仕掛けられた生魚の影。ひとつの奇声。翼あるもののひとつの奇声を待つ。舞い降りるものを待つ。足元を流れてゆく冷ややかな水。凍える真夏。消え失せろ、ボロガラクタの塊よ。
 
口実の囮。口実の獲物。そうしてでもしたたかに生を繋ごうとするものが私の中にいる。幻の翼が時間に萎れた私のなかで羽撃きの音を立てる。私は一匹の獲物として吊るされる。不恰好に椅子に腰掛けたまま。

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 飛行機雲
 contrail



 
百日紅はな落ちしのち実となりぬ
after the crape myrtles
have fallen
they have become fruits
 
青空に飛行機雲や原爆忌
contrail
in the blue sky─
atomic bomb anniversary
 
冷まじや昨日の雲の今日はなし
terrible
yesterday's clouds
are gone today
 
花落ちて実のつぶらなる百日紅
the flowers have fallen
and the fruits are forming a circle
crape myrtle
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愚かなる人の思ひもなきままに冬の陽うつす南天の実
without
a thought of
a foolish person─
reflecting the winter sun
heavenly bamboo fruits
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世を憂しと昔の人も詠ひけり春の孤独に灰色の雪
The world is
a melancholy place
as the old poets used to say
gray snow
in the solitude of spring
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春の雪紺屋の暖簾の重く垂る
spring snow
the curtain of a dyer's shop
hangs heavy
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言葉の王
 
 
その背凭れの高いプラチナの玉座は人知れず壊れてしまっていた。表面的にはおだやかな面持ちの王はいつからか独裁者に変貌していた。灰色の芝生は丈高く伸びて言葉を狂わせた。黄金の鬣をした野生馬たちを引き連れた新しい王が撃ち殺されたあとすべての言葉は灰燼に帰した。
 
言葉の王は襤褸の黒い衣を重ね着して舌をもつらせた。言葉という約束は行為に騙されすぎていた。信徒を失ってしまった、その王は大声で何かを叫んだがすべては暴風のなかに消された。
 
言葉の王の庭を人びとは華やかな孤島とうわさした。失われた言葉たちへの信仰はいま壊れた玉座として、この世の悲惨をごまかす頽落と化した。その玉座はそれを継ぐ盲目の佞臣たちがいたずらに操り、この国の言葉たちは腐ったまま死んだ。
 
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昔を思い出して
Remembering the old days

菜の花を線路の向かうにわれ見れば胸の奥処に潮ざいの音
when I look across
the tracks
at the rape blossoms
the sound of the tidal wave
deep in my heart

山茶花の四五枚こぼして花盛る昔の少女を記憶に戻しつ
four or five sasanqua petals
spilling over
and flourishing
bring back to memory the girl
I used to be



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昔を思い出して
Remembering the old days

菜の花を線路の向かうにわれ見れば胸の奥処に潮ざいの音
when I look across
the tracks
at the rape blossoms
the sound of the tidal wave
deep in my heart
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八百屋あり米屋魚屋春隣
there are grocery store
rice dealer and fishmonger
next spring
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この世の闇で

花冷のする季節にヨーコは今日も川を凝視めた。新聞をひろげて今日も憤った。どうしてこんな酷いことが起こるのかとヨーコは起ちあがった。そうして社会の不公平を正すためにおまえはそれを言葉に変えた。ヨーコは受賞してその名は各紙に載った。おれは言った。自分だけの正義に固執するなと。しかしその言葉はますますおまえのこころに火をつける結果になった。

おまえの主人がとつぜん会社を解雇された。ヨーコは生活に貧窮した。詩集を出版する金もなくなった。世間のひとがおまえの陰口をして嘲笑う。おまえに同情する友はいてもおまえを救けだすことは困難だった。過去の栄光がおまえを追い詰める。ひとがおまえを冷ややかな目で凝視める。

春が来ても不幸ばかりがおまえを襲う。おまえの姉弟が冤罪で捕まった。ヨーコは移りゆく時代のなかで闘った。しかしどうやってこの窮地から抜けだしていいのか分からなくなっていた。おおくの友もおまえから手のひらを返すように離れた。良い結果はでなかった。ヨーコはいま橋の真中に立ち尽くし川の流れてゆくのを眺めていた。

なんども言ったじゃないか、この世ではどんなことが起こっても不思議ではないんだと。もうおまえはこの世にいない。不慮の事故でおまえは死んだと報道された。真実が明らかになることはなさそうだ。時代の不幸な詩人としてヨーコ、きっとおまえは歴史に残るだろう。しかしおまえがそれを知ることはないんだ。今日も川は流れることをやめない。花の雨が降りしきるなかを。
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夢を見て生きてきに来しこの身さへ夢そのものと知らざしまま
I've been living
the dream─
I was unaware
that even this body
was a dream itself...
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老猫や古傷多し冬の果て
old cat
he has many old wounds
the end of winter

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初恋や真に孤独を知りぬべし白き頁に言葉ものせず
first love
I learned to
be truly alone─
not even a word could be written
on the white page
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二人ゐて幸とも思はぬ過去の日や水錆(みさび)の池に小石を投げる
days in the past
when we were together
I didn't even think I was happy─
in a rusty pond on the surface of the water
throwing pebble
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春を待つ恋歌むなしく聴きにけり
wait for spring
I'm listening to
the love song in vain
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闇深し
the darkness was deep


秋暑し舌絡ませる吐息かな
autumn heat─
we entwine our tongues
our breath

短夜もその闇深し電話切り
even though the night was short
the darkness was deep─
hang up the phone

眼を見ずに女と別る夕立雲
breaking up with a woman
without looking her in the eye─
shower clouds

秋の薔薇たま極まりて花咲かす
an autumn rose's soul
reaches its peak
and blooms


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何事も他者(ひと)と比べることはなし命の熱さは誰も同じし
don’t compare
anything
to anyone else
the heat of life
is the same for all of us

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昔を思ひ出して
Remembering the old days

娘の手わが指握る冬の星
my daughter's hand
grips my finger
winter stars

歩きつつわが子の眠る肩小春
while walking
Shoulder where my child sleeps
winter day
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いのちの初めよりあたえられしこと

あらゆる危難な暗闇でさえおまえを見守るために今も魚が巡る。その魚を求めて巨きな鳥がやってくる。ひとつの儀礼として巨きな鳥はそのうちの一匹を呑み込む。

鳥が一匹を喰らい、その翼をたたんでおまえのそばに佇むとき、そこに川が流れる。川の水は幾重にもなっていておまえの裸足を洗い、疲れて蹲る全身全霊を洗い尽くす。おまえの魂が熱く輝いておまえが再び歩み出すまでの休息を与える。

おまえを巡る魚と一羽の巨きな鳥の足元でおまえはこれまでにないほど深く眠るのだ。すべてはおまえのいのちの初めよりいのちそのものに装備されていた生来の仕掛けが作動したに過ぎない。

真におまえに休息を与えおまえを見守りおまえにちからを授けるものはおまえの脳でさえ計り知れないおまえみずからのいのちなのだ。

おまえのいのちを軸にして魚が見守り、さらに巨きな鳥の翼に寛大に守られていておまえは生まれた時のように真あたらしく目覚め、おまえのその思いを超えていのちのままに歩むのだ。


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我が友を思へば凍へるやうな年月や夢は砕けて袖に霜かは
when I think of my friends
frozen years
my dreams are shattered
my sleeves
is frost
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夢覚めて春は近しと言ひ聞かす
wake up from a dream
I tell myself
spring is near
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赤穂浪士討入
Ako Roshi’s revenge

積年の恨みを果たす寒の夢
fulfill
one's long-standing grudge
wintry dreams
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ジョディ

十何年かぶりに詩の会に出席した。どこの会館だったのか忘れた。むかし会った詩人が多かった。誰もが老けて見えた。それが自分のことでもあるのだと納得するのはむずかしかった。あのふくよかな顔をしたジョディは見る影もなく痩せていて最初は彼女であることすら気がつかなかった。

わたしの人生は匙一杯で量れないのよとジョディは冗談を言って紅茶に溢れるほどの砂糖を入れた。彼女の腕は驚くほど細くなっていた。煙草が彼女の指から離れることはなかった。まるで深呼吸するかのように煙草を喫んだ。断酒会に通ってるのよと別れ際に彼女は笑った。

ジョディに会ったのはそれが最後だった。スタンドライトの光でキーボードを照らしながら今ジョディのことを想う。おれが詩を書き始めたのもジョディの影響だったのかもしれない。二人で見ていた未来の夢や馬鹿らしい冗談を。あの一途で情熱的なきりっとした眼差しを。今はもうどこにもいないジョディを。
                    

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死を忘れ生存呆けする人のゐてやたら勲章ちらつかす
forget death
there are people
who are a blur to survival.
flickering medals to people
excessively
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人生について

永遠の無から生まれて永遠の無に戻ってゆく。その一時の生の認識を人生と呼ぶ。群猿の屑文化のなかで右往左往とすることは何もない。

一人の認識をこの世と呼ぶとき、この一人の認識の終わりは世界の終焉である。そして永遠の無に戻ってゆく。前世も後世も人間の妄想に過ぎない。

この世は生まれては死ぬという意味で平等である。理想主義でも現実主義でもない。苦しい人生を送ってきた者は死という幸福に恵まれ、楽しい人生を送ってきた者は死という不幸に死んでゆく。

何も持たずに生まれてきて何も持たずに死んでゆく人生に何を求めることがあるだろうか。幸せとは脳に思い描いたことが現実化するということに過ぎない。幸不幸は人生に関係がない。

脳という器官はいくつかの誤った判断を持っている。自分を観察者として他を比較することに騙される。他と常に比較し比較される。また死んでからも認識が残っていると思っている。名前を残しても死んだ当の本人には関係のないことである。これらは脳という器官のトリックでしかない。

世界ではネガティブよりポジティブに生きる方がいいというが、何を血迷っていのか。ただすることだけをすればいいだけである。もちろん幸福に感じる時も不幸に感じる時もあるというだけのことでしかない。これは実際の人生に関係ないことである。人生は一時の夢でしかないのだから。
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清盛が孤独も知らず暮れ易し
No one knew
of Kiyomori's loneliness
sunset easily
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短日や人に知られぬ寂しさを照明(あかり)に照らして見えるものかは
short time
the loneliness
that others will never know
It's what you can't see
in the light of a lamp
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1998年現代詩手帖
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言葉の王


その背凭れの高いプラチナの玉座は人知れず壊れてしまっていた。表面的にはおだやかな面持ちの王はいつからか独裁者に変貌していた。灰色の芝生は丈高く伸びて言葉を狂わせた。黄金の鬣をした野生馬たちを引き連れた新しい王が撃ち殺されたあとすべての言葉は灰燼に帰した。

言葉の王は襤褸の黒い衣を重ね着して舌をもつらせた。言葉という約束は行為に騙されすぎていた。信徒を失ってしまった、その王は大声で何かを叫んだがすべては暴風のなかに消された。

言葉の王の庭を人びとは華やかな孤島とうわさした。失われた言葉たちへの信仰はいま壊れた玉座として、この世の悲惨をごまかす頽落と化した。その玉座はそれを継ぐ盲目の佞臣たちがいたずらに操り、この国の言葉たちは腐ったまま死んだ。

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古時計
an old clock


ラツパ吹く凌霄花の真下にて
blow the trumpet
chinese trumpet creeper
right below

翡翠や古き時計のねじを巻く
jade
winding the screw
of an old clock

尻掻きて昼寝の夢を思ひ出す
I remember a dream
about scratching my butt
and taking a nap

一露に怒りもあらず百日紅
not a dew
has anger in it
crape myrtle


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詩人たちよ、目を開け!

ろくに詩も書けない審査員に評価されて、つまり番号をつけられて何が嬉しいのか。偉そうな盲目な審査員に勲章をもらって喜んでいる者がいるとするなら、それは詩人ではない。

詩はたとえ殺されることがあったとしても、心から心に伝えることのできる詩人のものだ。惰性や私情に流されることなく、おれたち詩人はそんな偽善に喜んではならない。

おれたちははつきりと告発するべきだ。どの詩が心に残ったのかを。歴史が続くならば、歴史こそがその証人である。うそ偽りのある審査員や批評家は歴史に汚名を残すだけだ。

さあおれたち詩人は刮目して真の詩を求めよう。喜びから苦しみまでをつぶさに検討して歴史の前に偽善者を洗い出そう。決して権力や金に負けることなく、おれたちの生活にかかわる事実を書こう。
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石の本質

詩の死んだ青い季節、何もかもが崩れるそのまえにおれたちの時代の詩が一律に唱えるこのやわらかい迷情を聴こう。個人的な闘いの現状が記録の合間にいくつもあったはずだが、今はだらだらとだれた衣類のように処理されて愚鈍な黄昏のように響きが残るばかりだ。その記録をひとつの疑似だというなら、このおれの詩はふざけた悲劇、悲しみを予告する喜劇でしかない。

もし詩がこころ打たないのであれば、この信じられない透明な真実はだれが書きとめるのだろうか。むしろ詩は貴重な真実としてこころの地下通路をつかって沈黙のまま書きとめられなくてはならないだろう。時間に耐える強靭な言葉を詩の季節の弔いとしてここに捧げるしかない。

一個の石。百千の言葉を費やしてもその石を言い表したことにならない、その具体的な石をおまえに手渡しする。おまえの苦悩の掌に確と手渡された石。それはおまえの掌だけを温めるのではない。おまえの身心のその核を満たすのだ。さあ、すぐに消えてゆく虹を手放しておまえはおまえの石を受けとれ。

石に残るおれの体温はおまえの体温に受けつがれるのだ。手から手へと。なにもかも顛倒しているのがこの世の現実なのだ。しかし時間を騙すことは不可能だ。真実が過去から現在に現れるというのもひとつの事実に違いない。真実の石。それは何処にでもある。詩人はみずからを賭してこの真実の石をつたえなければならない。
                    2015/09/22
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太郎さん

太郎さん

四季狂ひ怨みと悲しみ戦争の他国にありて他国にあらざる
the four seasons are madness
grudges and sorrows
War is
about other countries, but
It is not only about other countries
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太郎さん

太郎さん

寒き風孤独の寂しさ堪へられるいつか無になる身とや思へば
cold wind
even the loneliness of solitude
is bearable
thinking that one day
I'll be nothing
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GRAVITY8
太郎さん

太郎さん

寒中や落胆ふかく蹲る
cold season
crouch
in deep despair
GRAVITY6
GRAVITY6