迷う星屑 AsSt
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そう𖤣𖥧𖥣。
『おやすみの起源』
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昔々――まだ星に名前がなかった頃。
夜は、ただの闇ではなかった。
眠るたび、人々の魂は空を旅した。
あらゆる夢がまだ世界の“外”にあった時代のこと。
人は知らずに彷徨い、
そのまま帰れなくなる者もいた。
夢の中で名前を忘れ、
朝が来ても目を覚まさなかった。
それを悲しんだ“眠りの神”は、ひとつの言葉を人々に授けた。
――「おやすみ」
この言葉を交わすことで、魂には「戻る場所」が与えられる。
迷ってもいい、怖がってもいい。
けれど最後には、必ず朝の世界に還れるようにと。
以来、人々は眠る前に小さくつぶやく。
誰かに向けて、あるいは空に向けて。
「おやすみ」と。
それは祈りであり、合図であり、
時に“愛している”と同じ重みを持つ。
夜ごと、星々はそれを見守っている。
言葉にならない想いのかわりに。
今日を終えるすべての人の上に、静かに降りそそぐ。
おやすみ。
それは、眠りにつく者たちへの
世界からの「またね」
——そして、そうして出来上がったのが、
寝落ち民専用『寝落ちルーム』である。
投稿のほとんどが「」で構成され、
リアクションはすべて「」だったという——。
(いい夢を)
#迷う星屑


そう𖤣𖥧𖥣。
『』
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その夜の“寝落ちルーム”は、少しだけ賑やかだった。
「今日、寒かったね」
「ふとんから出られなかった」
「起きたら雪積もってた」
『』
「おやすみ、みんな良い夢を」
『』
いつもと同じ、柔らかなやりとり。
「」がぽつぽつと流れ、誰かが眠りに落ちていく。
A: 〇〇さん、今日は遅いね
〇〇: ……うん
A: 眠れなかったの?
〇〇: 起きてたのは、体だけかも
A: ……冗談?
〇〇: そうだといいね
A: 今日さ、あの猫の写真見た?
〇〇: 写真は見ないようにしてる
A: え、なんで?猫好きだったじゃん
〇〇: 目が合うから
A: ……え?
〇〇: それで思い出される
A: なにを……?
〇〇: おやすみ
A: ……ねぇ、〇〇さん
A: さっきの話、どういうこと?
A: ……?
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翌晩
〇〇: こんばんは
A: あ、昨日のあれ……なんだったの?
〇〇: 昨日?
A: え……寝ぼけてた?
〇〇: ずっと寝てたよ
A: ……そっか
でも、誰も気にしていないようだった。
その夜、まだみんながいた。
――たぶん、本当に。
#迷う星屑


