共感で繋がるSNS
8月SS『夏祭り(花火大会)』

8月SS『夏祭り(花火大会)』

終了
投稿3件
投稿
浅葱ノア

浅葱ノア

『夏祭り(花火大会)』

近所の河川敷で夏祭り。歩道に数々の屋台が並び、祭りを楽しみにして来た人々がお目当てのものが無いかと歩き回る。浴衣着る若いカップル、甚平を着て母親と手を繋いで歩く子供、学校帰りに寄ったのであろう制服姿の学生たち……。どの人もこれから始まるメインイベントに向けてそれぞれ綺麗に見える場所を確保したり、それまでの間腹を満たすため屋台に並んだりする。
そんな中、河川敷から遠く離れた公園に幼なじみと花火が上がるのを待っている。
「コウ、今年も来ちゃったね」
幼なじみが声をかける。僕はそうだなっと返事すると、また話しかける。
「もう15年もこの場所で見てるけど、本当に誰も来ないね。私とコウの穴場」
幼なじみはそう言うと、買ってきた焼きそばとお好み焼きを取り出す。
「コウ、どっち食べる?」
幼なじみの問に僕は焼きそばを指差す。でも幼なじみが手にしたのはお好み焼き。
「コウ……。1人で来るのはこれで最後にするね」
幼なじみがそう言って僕はやっと思い出す。
5年前、僕は不慮の事故でこの世から去った。しかも幼なじみの目の前で……。
「コウ、私この街を離れて、都会の小さな会社に就職するの。このお祭りも今年で最後になりそう。……コウ、ありがとう」僕は幼なじみの肩にもたれかかる。時が止まった僕と大人になった幼なじみ。身長は変わらないけど、綺麗になった幼なじみを僕は心の中で応援している。
作家の星作家の星
GRAVITY
GRAVITY8
はね

はね

【夏祭り(花火大会)】


実家に帰省中。
年季の入った扇風機の前で溶けかけの棒アイスを咥えていた私に、記憶より少し年老いた母が「今日は夏祭りよ」と言った。
その言葉に、普段は低空飛行の私のテンションが、ふわりと持ち上がるのを感じた。
昔は毎年、友人達と一緒に連れ立っていたものだ。でも、今ではこの町にいる友人はほとんど居ない。
みんな都会に出て行ったり、結婚して嫁いでいったり。
誰かと誘おうにもそんな状況では、誘える相手は見つからない。
普通ならその時点で夏祭りに行くなんて選択肢は消える。
しかし、私の場合は違った。
夏祭り、昔食べたチョコバナナやたこ焼き、りんご飴……などが無性に食べたくなった。簡単に言えば食欲に負けたのだ。こういう時一人でも動ける人間でよかったとつくづく思った。
もしかしたら暑さや、普段は聞かない祭りという言葉に当てられてしまったのかもしれない。でもそれでも良かった。
財布を鞄に入れ、夕暮れの道を歩く。途中私を浴衣を着た下駄を鳴らしながら歩く若い女の子と擦れ違ったり、追い越されたりした。それを見るたびに心がムズムズと高揚すると同時に、どこが自分は一人で何をやっているんだろうと自虐的なひんやりとした気持ちにもなる。
あの子達はこれから友人と一緒に回るのかな、それとも恋人と回ったりするのだろうか。そう思うと耳の奥で冷たい声が聞こえてきた。
「あーあ…、お前、マジハズレ…。女として終わってんな…」
食べることが好きで。
そんな私が好きだと言ってくれた。
そんな元彼は浮気をして、別れてほしいと伝えた。
その際に吐き捨てられた言葉。
自分なりにオシャレをしてるつもりだった。
彼と会う時は出来るだけ可愛い彼女で居たつもりだったが。
彼にはそのようには見えていなかった。寧ろ、女として終わっていると言われてしまった。

例え恋人と別れても、世界は回るし腹は減る。
それに、ここでショックで食べれなくなったらまるで元彼を引きずっているようで悔しかった。何と言われようが私はいっぱい食べる自分が好きだし、元彼の言葉一つで自分を曲げるつもりはない。
腹の底まで響く和太鼓の音と、賑やかな囃子の音が聴こえてくる。
私は過去のしがらみを振り払うように、一歩ずつ早く祭りに向かう。
「あれ、桜坂じゃん」
不意に、聞き覚えのある低い声が鼓膜を震わせる。足早に進んでいた私の速度が緩み、やがてぴたりと止まってしまった。
声がした方を見ると、せっかくの高身長を猫背で台無しにしている男性が、私を見つめていた。
少し長めの前髪と、かけられた眼鏡の奥から、まっすぐな視線が飛んでくる。一瞬、知らない人かと思って身構えたが、聞き覚えのある声と恵まれた体格から、私の記憶はある一人の人物を導き出した。
「鷹岡、君…?」
鷹岡君は学生時代からイケメンだと言われていた。そのためこうやってわざと地味になるように演技をしている。
私はそんな鷹岡君が、苦手だった。
そして向こうも私には、一切興味がないと思っていたのに苗字を覚えられていた事、突然呼び止められたことの二重の意味で驚いてしまった。
「一人?」
鷹岡君は辺りを見渡して私の連れ合いを探すが、私は素早く一人だよと答える。
「鷹岡君は?」
物凄く居心地が悪かった。だが鷹岡君はそんな私の気など知らず「俺も一人」と言った。それに私はまた驚いてしまった。彼は男女問わず好かれて色んな人に囲まれていたイメージがあったから。
「ねぇ、独り者同士一緒に回らない?」
いつもの私ならここで断っていただろう。
だが、夏祭りという雰囲気でテンションが上がっていて、夏祭りという魔法にかかっていた私はその誘いに頷いてしまった。
作家の星作家の星
GRAVITY
GRAVITY6