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口座爆発
私はアルバイトが好きだった。今振り返れば好きだったという書き方の方が正しい。アルバイトをしていた当時は全く以って好きではなかったから。
16歳の冬に行った食品工場でのバイトですっかりトラウマを植え付けられ、バイトは過酷なものだと怯えてしまい、その後高校生活中にアルバイトをすることが無かった。部活に精を出し、勉学に励むことに没頭した。
あのたった三日間という契約で働いたバイト先から、17歳の冬の時に「またやりませんか」と電話があった。
電話をしてまでバイトする人間を探してるなんてよっぽど人手が足りないのだろう。恐ろしいところだ。絶対にやりませんと断った。人を人と見做さないような場所には行きたくないのだ。10代の私は案外繊細な心を持っていた。
工場でのトラウマと、根っからの怠惰な性格が相まって、益々とにかくアルバイトはしたくない、働きたくないという気持ちが強まっていった私である。ところがアルバイトをしないと金がないので人との交流も持てない。大学へ通えない。様々な問題が生じるために一念発起でアルバイトを再開した。高校生くらいだとやはり単発バイトでは肉体労働しかない。肉体労働は嫌いではなかったが、環境に左右されすぎる。しかし、高校を卒業している私ならば、東京までの定期券を駆使して、いくらでもバイトは探せそうだと、念入りに単発ではないバイト探しをした。
怠惰な私はなるべく楽な仕事がしたかった。時給にこだわりはなく、安くてもいいから楽な仕事がしたい。この一点に尽きると思った。喫茶店のバイトを探した。混んでない喫茶店を。しかし求人サイトに掲載されてるのはチェーン店ばかりで、チェーン店というのはどこもかしこも忙しそうだ。実際に掲載されてる店に偵察にも行った。客が少ない時間帯はあるものの、眺めてる限りなんだか業務が複雑そうだなとか、想像したら自分にできる気がしないやとか、しっくりこずに喫茶店はやめた。個人経営の暇そうな喫茶店というのはアルバイトなどそもそも募集をしてない。暇なのにバイトを募集する必要がない。当たり前の話だった。
ラーメンが当時好きだったのでラーメン屋のバイトも頭に過ったが、あんなもん絶対働く側になるもんじゃないと、好きが故に理解していた。わたしの第一目的は、時給は安くていいから楽がしたい、だから。
次に目をつけたのがケーキ屋さんだった。甘いものも私は大好きだったし、ラーメンほど食べる機会もないから、これを機に食べまくろう。ケーキが絶対もらえるはずだわ。とかまた甘い思考で企んだ。ケーキだけに。
偵察に行ってみると午前中がめちゃくちゃ暇そうだった。客がほぼいない。午前中にケーキ屋さんへ行列を作る人間などこの世にはいない。仮にいるとしても、めちゃくちゃ暇な人間か、よっぽど砂糖が好きな変人だと思う。ところが昼過ぎから夕方にかけてめちゃくちゃ混み始めた。大人気店やないかいこのケーキ屋、と驚いた。
東京はケーキ屋に行列ができるんだな、と感心していたが、これはあまりやりたくないな、忙しそうだもんと思った。だがその時閃いてしまった。
店が暇な時間帯の朝にシフト入ればええんや。くほほほ。これは発明。勝機あり。
即座に応募した。当時のバイトの応募は電話だった。メールとかは確かなかったと思う。これは余談だが電話文化に生きてきた人間なので、未だ電話で何事も連絡する癖がある。メールは文字を打つのが面倒くさい。
採用係りに連絡するとすぐに呼び出されて、面接を受けることになった。即決された。じゃあもう早速仕事の様子見てもらうね、とか見学をさせてくれたが、こちらはもう偵察を済ませているのでその必要はありませんとは言えなかったが、ケーキの魅力みたいなものを店員さんが語っていたような気もする。ウブな私はレジ打ちもしたことがないから、ケーキの値段を全部暗記して手打ちをするもんだと勘違いしていたが、バーコードを読み取るらしいことを聞けて安心もした。ケーキにバーコードなんて貼られてないから手打ちをするものだと思っていたのだ。バーコードだけの表があんのか、と驚いた。
シフト作成は面接をしたオーナーではなく、店長がやるものなので店長にシフト希望を出した。すべて午前中。とても嫌な顔をされたことを覚えている。夕方とか入れない?と聞かれても、授業があるので無理ですと断り続けた。
長期のバイトは人生初なので、初日はとても緊張していた。いや、初日というかバイトを始めて半年くらいはずっと緊張していたかもしれない。やたらに高級感のある店だったし、やたらに丁寧な接客とか求められたし、ケーキ屋で働いている人は女しかいないし、いたたまれない雰囲気だったから。
私がどれほど怠惰な人間かというと、例えばプリンの瓶にシールを貼ってくれと頼まれたら、とてつもなくゆっくりと牛歩戦術でシールを貼るのだ。あえて。
なぜかというと、プリンの瓶にシールを貼る作業なんてすぐに終わってしまうため、一つの仕事が終わればまた別の仕事を頼まれてしまう。なるべく、なんか作業をやってる風でシフトを終わらせたい。午前中なんて客もほとんどいないし、マジでやることがないのだ。プリンの瓶にシールを貼ったり、たまに来る客にケーキを渡すだけでお金がもらえるなら何と楽なことか。くほほほ。いいバイト先を見つけたわ。と歯茎を見せかけていたのも、束の間、やはりどこにでもいるのだ、厳格に仕事をこなそうとするパートのおばさん。
怠惰な自分をすぐに見抜き、めちゃくちゃ仕事を押し付けられるようになった。客が午前中はいないから、雑務がたくさん任される。配送の手配や、焼き菓子のラッピング、ショーケースのレイアウト、私はそんなに働きたくないのだ。しかし働かないとネチネチネチネチ煽られるのがストレスなので、いつの間にやらパートのおばはんに操られ、めきめき雑務をこなす力をつけてしまった。早く辞めたい。そんなことも思い始めていたのだが、気が弱いので辞めますと言えなかった。
若かりし頃の私はなんと純朴だったのだろう。今の私ならすぐに辞めてる。なんならバックれている。ところが当時の私は、こんなに雑務をテキパキこなして私がいないと困る人もいるだろうとか考えていた。
だいぶアルバイトにも慣れて、始めて一年くらいが経った頃、朝だけじゃなくて夕方あたりもやれないのかと店長に懇願された。それはまじで無理ですと断り続けていた。ところがある日の夕方、店長から突然電話が入った。シフトに入っていたバイトの子が急遽来れなくなってしまい、まじで店が回らなくて困っている助けてくれということだった。
当時の私は本当にまじめだった。大学の授業も終わり、友達とタバコを吸っているだけの時間を過ごしていたので、人が困っていたら助けなくてはならないと思い、すぐに向かった。
えげつない混み方であった。なんでケーキ屋にこんな行列を作っているんだろう人間は、と呆れた。クリスマスならまだしも、なんでもない平日の夕方に。
私は午前中のぬるい雰囲気しか知らなかったので、また新たなステージへ突入してしまった。ケーキを売っても売っても客がいなくならない。ひたすら注文されるケーキを取り出し、箱のケースに詰めて、メッセージプレートに名前を書き、シューにクリームを詰めていたりした。あっという間に時間が過ぎた。疲労も凄まじかったが、4時間くらいのバイトだったのに、体感時間は1時間もない感じだった。
このとき別の快感を手にしてしまった。めちゃくちゃ忙しいと体感時間が短い。暇は暇で良いのだが、確かに客がいない時間の接客バイトは本当に時間が長く感じる。4時間のバイトが8時間に感じる。しかし忙しいとそうはならない。更に言うと、忙しいとみんなで協力して店を回さなくてはみたいな謎の連帯感が生まれ、他のバイトの人達と仲良くなったりする。私はそれまで午前中にしかシフトに入ってなかったので、私しか店にバイトがいなかった。なんだこの夕方シフトの謎の快感は…。別のバイトをしている感じになっていた。更に夕方から夜のシフトは締めの作業もあるので、余ったケーキも食べられる。
ケーキ屋でアルバイトを始めて1年でようやくケーキを食えるという恩恵を受けた。激務の後のケーキは身体に沁みた。しかも大人気店のケーキだ、本当うまかった。
私はアルバイトが好きだった。

🐓

なぁ
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私はトラルファマドール星人だ。きみたちがロッキー山脈をながめるのと同じように、すべての時間を見ることができる。すべての時間とは、すべての時間だ。それは決して変わることはない。予告や説明によって、いささかも動かされるものではない。それはただあるのだ。瞬間瞬間をとりだせば、きみたちにもわれわれが、先にいったように琥珀のなかの虫でしかないことがわかるだろう。
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まねきん
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イラスト・漫画描くのと写真が趣味で、スプラトゥーン大好きです。
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なぁ
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