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可惜夜

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自作のファンタジー小説の「一部」であるため、終始何言ってるかわからないと思われますが自己満で載せさせてください()



 息子がいなくなってから一週間が経った。
 その日は、茹だるような暑さだったことを覚えている。ダブルベットの片割れには、もう枕すら置いていなかった。
 空っぽになってしまった部屋は、思った以上に広く、そして冷たかった。シーツを替えようとして手を伸ばしたとき、指先がそこで止まった。彼が、彼らがそこにいないという事実が、布のシワよりもはっきりと、感触として残っていたからだ。
 洗濯機の回る音が、やけに遠く感じられた。家の中のすべてが、失ったことを知っているようで、知らないふりをしているようでもあった。
 夫は、あの日以来戻ってこなかった。玄関に残された靴跡も、洗面所に転がった歯ブラシも、秒針が刻一刻と、残酷に消していった。置き手紙ひとつなかったことが、彼らしいと思う一方で、その不在は息子の不在とは違う重さで胸にのしかかった。
 怒りよりも先に、空白があった。それは理由を考える余地すら奪われるほどの、無音の逃避だった。
 台所に立つと、三人分の味噌汁を作ろうとしてしまう。鍋に水を注いでから、慌てて蛇口を閉める。そのたびに、自分がまだ「前の時間」に生きていることを思い知らされる。秒針は刻一刻と進んでいるのに、心だけが取り残されていた。
 夜になると、息子の声が聞こえた気がした。もちろん、幻だとわかっている。それでも、耳を澄ませずにはいられなかった。「ママ」と呼ばれることはなく、ただ、存在だけがそこに漂っているような感覚だった。
 それからというもの、眠りは浅く、夢の中でも失った物を探し続けていた。何を、どこを、という輪郭はなく、ただ「失ってしまったもの」を。
 母である私は、どこで間違えたのだろう。問いは答えを伴わず、同じ場所を円環上にぐるぐると回る。答えが出ないことを、もう知っているのに。
 それでも、眩しい朝は来る。カーテン越しの光が、残酷なほど平等に部屋を照らす。たった一人の、広すぎる部屋を。
 まだ、泣き方を思い出せずにいた。涙は枯れたわけではなく、出口を見失っているだけだった。
 そしてただひとつ確かなのは、この家に残された静けさが、彼女自身の呼吸と同じ速さで、これからも続いていくということだった。
 
 それから数か月が過ぎた。季節は移ろっていたが、私の中では、息子がいなくなった日から時計が少しだけ狂ったままだった。朝と夜の境界線が曖昧で、何をしても「ただ時間をやり過ごしている」感覚が消えなかった。
 そろそろ、働かなければならなかった。理由は単純で、生活のためだったが、それだけではなかった。何もしない時間が、私にはあまりにも重すぎた。考え始めると、心はすぐに同じ場所へ戻ってしまう。だから、考える暇のない場所を探していた。
 求人票の束の中で、視線は一枚の紙に留まった。
 白地に黒い文字で、感情の入り込む余地のない言葉が並んでいた。
 なぜそれに惹かれたのか、自分でもはっきりとはわからない。ただ、監獄という「閉ざされた場所」に、奇妙な安堵を覚えた。逃げ場のない空間。規則で区切られた時間。そこでは、感情よりも役割が優先される。母でも妻でもなく、ただの一人の職員として立てる場所。
 夫が去って以来、彼女は「守る側」である自分を失ったままだった。守れなかったという思いが、胸の奥で固まっている。看守という仕事は、その失われた役割を、形だけでも取り戻せるように思えた。誰かを正しく導くわけでも、救うわけでもない。ただ、秩序を保ち、日常を維持する。その距離感が、彼女には必要だった。
 研修の日々は、淡々としていた。法律、規則、対応手順。感情を持ち込まないことが、何度も強調された。その言葉は、彼女にとって戒めというより、「許容」のように響いた。感じなくていい。深入りしなくていい。それでいいのだと。
 
 初めて制服に袖を通した日、鏡の中の自分は、少しだけ他人に見えた。黒い布に包まれた身体は、過去を隠してくれる鎧のようだった。名札に刻まれた名字を見て、彼女は一瞬、呼ばれることのない息子の名前を思い出し、すぐに視線を逸らした。
 その日から私は、「シャンティ・コントルド」とう姓名を棄て、「トリネコ・キルハート」として生きるようになった。
 施設の中は、いつも一定の温度と音に保たれている。鉄扉の開閉音、足音、号令。すべてが規則正しく、感情の入り込む隙間がない。彼女はその秩序の中で、ようやく呼吸ができるようになった。【服従】という魔法を武器にしてきた私は、猫に睨まれたネズミのように、上司に従うようになった。
 看守になった理由を誰かに問われたことはない。問われたとしても、きっと答えられなかっただろう。
 それは贖罪でも、使命でもない。ただ、崩れきった自分が、立っていられる場所がそこにあったという、それだけのことだった。
 鉄格子の向こう側とこちら側。その境界線を毎日確かめるように歩きながら、私はまだ、自分が何を失い、何を抱え続けているのかを、言葉にできずにいた。それでも、眩しい朝は来る。ここは陽射しが微塵も通らない監獄教育機関。照明によって造られた陽射しは、実物のそれより眩しかった。
 もうあの家に帰ることはないのだろう。
 制服に腕を通し、名札をつけ、私は今日も扉を開ける。
 呪い方を知らない幼子に、呪いを封じ込めるよう教育する。
 誰かを呪わない様に。
 私のように、誰かを呪わない様に。
 それが、私の使命だ。
 
 17『目覚め』

 保健室の寝具は、少し低かった。
 トリネコは椅子に腰を下ろす前に、名札を外して机に伏せた。裏返すでもなく、正面のまま。文字が読める位置に置いたまま、椅子に座る。
 それが癖だと気づいたのは最近だ。
 向かいに座る天才は、看守でも囚人でもない顔をしていた。ここにいる理由を、どこにも貼りつけていない顔。トリネコはそれを見て、呼吸を失った。私の胸の奥で、何かが燻ぶった。
「率直に聞きます。僕たち”叛逆生”の一員に加わってくれないですか」
 声をかけられても、すぐには返事ができなかった。
 代わりに、机の角を指でなぞる。欠けている部分。前からあったのか、自分が来る前にできたのかは分からない。
「話す必要はない」
 零はそう言った。「聞きに来ただけだ」
 聞く。
 その言葉が、ひどく遠回りに感じられた。
 トリネコは息を吸った。正義を守るための呼吸。規則を乱さないための間。そうやって何度も、何もできなかった呼吸。
「……私は」
 言いかけて、止めた。
 言葉が、いつもの順番で並ばなかった。
 夫がいなくなったことも、子を失ったことも、最近では「出来事」として処理できた。泣くより先に、整理した。崩れるより先に、役割に戻った。
 守っていたのは、他人じゃない。
 自分が立っていられる場所だった。
「正しい行いをしてきた」
 ようやく口に出すと、その言葉は思ったより軽かった。
 零は否定しなかった。代わりに肯定もしなかった。
「正しい行いは、君を助けたか?」
 その一言で、何かが終わった。
 トリネコは笑おうとして、失敗した。
 笑顔の形を、忘れていたことに気づいた。
「助けられると思ってた」
 ぽつりと零す。
「正義にいれば、少なくとも……間違ってはいないって」
 零は目を伏せた。
 同情でも軽蔑でもない、ただの沈黙。
「依存だな」
 零は静かに言った。
 「俺を洗脳したとき、俺に抱いた感情ですね」
 トリネコの中で、反射的に何かが跳ねた。
 怒り。否定。拒絶。
 でもそれらは、すぐに形を失った。
 依存。
 その言葉は、彼女の過去にぴたりと嵌まった。愛する人を失ってから、誰かに縋ることを、ずっと恥だと思っていた。
 だから私は、正義に縋った。役割に縋った。規則に縋った。
 それなら、誰にも見えないから。
 零に向けていた感情も、同じだった。
 それはもはや救いではない。
 「居場所」をくれる存在への、歪んだ愛情。
 トリネコは、名札に視線を落とした。
 自分の名前が、そこにあった。偽名だが、これが本名だと信じたくて仕方ない。私はトリネコ・キルハート。過去はもう捨てたはずだ……。そのはずだった。
「私は……何もできなかった」
 初めて、順番を崩して言った。
 理由も、背景も、言い訳も抜きにして。
 零は、ようやく私を見た。
「できなかったことを、数えるのは簡単だ」
 そう言ってから、少し間を置く。
 「でも、今できることは?」
 トリネコは顔を上げた。その問いは、救いではなかった。代わりに逃げ道もなかった。
 それでも、不思議と口が動いた。
 名札を手に取る。今度は裏返した。
「私は、正義を疑う」
 それは誓いでも宣言でもない。ただの選択だった。
「守れなかったものを、理由にしない。役割に、逃げない。誰かのためじゃなく……人間として、自分のために動く」
「それでこそあなただ」
 保健室を出るとき、トリネコは一度だけ立ち止まった。
 背筋を伸ばし、深く息を吸う。
 正義は、私を救わなかった。でも、人間であることは、まだ終わっていない。
 その事実だけが、静かに、確かに、彼女を前へ押していた。
 私は叛逆生。シャンティ・コントルドだ。
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ポンコツ

ポンコツ

旦那さん 奥さんへの不満は?旦那さん 奥さんへの不満は?

回答数 32>>

完全なモラハラ夫。
エベレスト級に高いプライド。
自分が正しいと思ってる。
価値観は違うし、とにかく細かいし。
私を否定してくるし。
それでいて、自分には甘いの。
言葉でねじ伏せてくる。
論破する。
これはもう完全な支配です。
既婚者の星既婚者の星
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よよ

よよ

なんか体痛いと思ったら、昨日夜中に腕立て伏せやらされたからだ
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