言葉にならない透明な音が、空気の隙間をすり抜けてゆく。その在り方は、光の粒子の踊りのようで、風の指先のざわめきのようで、見えないけれど確かな輪郭をもつ。「普通」と呼ばれる影のなかに、深淵の静けさと揺らぐ炎が混ざり合う。強さは無音のまま、穏やかさは時間を溶かし、優しさは気づかれずに触れてゆく。そのひとは、世界の端のほうでただ淡々と呼吸し、ありふれた光のなかに唯一の星を灯していた。あっという間に、心はその星に降りていた。もうこんな出会いがないと知っているから、あの風のようなひとが、胸の奥でいつまでもそっと響く。#風の人