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私にとって見える世界が
失われたことは世界が失われた
ことに等しかった

ただただ ベッドの上に縮こまって
何も考えたくなかった

1年6ヵ月の間
私の巣ごもりは続いた

そんな生きているのか
死んでいるのか
わからないような私の魂を
呼び戻すきっかけとなったのは

かつて私が愛読していた雑誌に
ある評論家が
お書きになった 次の一文だった

"野球の試合にダブルヘッダーが
あるように
人生にもダブルヘッダーはある"

最初の試合で負けたからといって
悲観することはない

一回戦で素晴らしい試合ができた
のなら その試合が素晴らしかった
分だけ もし惨敗して悔しい思いを
したならば 悔しかった分だけ
二回戦にかければいい

その二回戦は それまでにどれだけ
ウォーミングアップをしてきたか
によって勝敗が決まってくる "


私の二回戦は
これから始まるのだと思った

一回戦とは違い 目の見えない私で
戦わなければいけない

だが この一年半というもの
二回戦を戦う準備をさせてもらった
もうウォーミングアップは十分だ

いてもたってもいられない気持ちで
東京都の福祉局に電話をかけ
ある心身障害者福祉センターを
紹介してもらった

目が見えなくなって 何から始めたら
いいのかわからない自分にとって
まず最初に必要なのは
一人で歩けるようになることと
点字を読めるようになること…
新しい人生を出発することになった

そうして私の二回戦の試合模様が
一冊の本にまとまった…
結婚し 子供を産み 盲導犬と共に
暮らす奮闘ぶりが描かれている

こうして
あの空白の一年半から
立ち直ってみて思うのは
生きる勇気を失わない限り
私たちはたいていの困難を
乗り越えていくことができる
ということである

不幸のどん底にいるときには
どこまでも奈落の底に落ちて
いくのではないかと思えてくる

だが それをこらえて
じっと痛みを耐えていれば
かならず明るい光は見えてくる

その一つひとつの困難を
乗り越えていくことが生きると
いうことなのではないかと思う

そして
一試合目がうまくいかなくても
人生にはときに
二試合目が巡ってくるのだ

そのためのウォーミングアップを
続けていくことこそが
次の一歩を踏み出すために
もっとも大切なことなのだと思う

#郡司ななえ
#365人の人間学の教科書
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