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あお🫧
@モ! ×あお
「アカップオブティ」
無限とも思える静寂な空間、
宇宙。
そこを音もなく亜光速で走る船がある。
船名は「サフラゲットビレッジ」
そこの貨物室で、
手のウインチアーム以外大体四角で作られたロボットは同僚のアンドロイドに向かってこう話しかけた。
「ジョニー。僕はほとほと感が鈍い男だ」
髭面のジョニーはほんの一瞬荷物を持ち上げる手を止めた。
「ほう」
「時にだよ、
言葉は現実の模型だ
ただし「本当」のこともあれば
「無意味」なこともある
さらに困ったことに「嘘」の時もある
僕は嘘を見抜く能力が著しく低い」
ジョニーはこれに対してこう言った。
「君は3世代前の量産型とはいえ、人間に遜色のない能力を持った男だ。そんな君でも感は鈍いのかい?」
ロボットは貨物運搬作業の手を止めず、ジョニーに向け180度回した頭で頷いて見せた。
「うむ。僕はそれに対する自己分析をしてみたんだがね、僕は『たとえ嘘でも表面的に取り繕っていれば、というか、もっというと後にもそれが露見に及ばなければそれでいい』と思っているようなのだ」
ジョニーは3メートル四方の貨物コンテナの上に易々と飛び上がり、そのヘリに座って答えた。
「それは開放的だか閉鎖的だかわからん姿勢だね」
ロボットは右手のウインチアームを大変長く伸ばし、コンテナの上にいるジョニーに入れた手のコーヒーを手渡した
「そうなんだよ」
ジョニーは貰った熱々のコーヒーを啜った。
「コロンビア産だね」
ロボットは腕を短く戻して今度は少し首を伸ばした
「そんなわけないだろ」
ジョニーは首を傾げながらぶつぶつ言った。
「これは確かにコロンビア産の味と香りなんだがな?」
サフラゲットビレッジはそんな会話はお構いなしに、白鳥座へと進んでゆく
***
ふたりがコーヒーについて言い争っている最中、
貨物室の天井からふっと、音もなく光の粒が降ってきた。
重力を忘れた塵のように、ゆっくり、ゆっくりと。
その光が床に触れた瞬間、空気が押しつぶされたように波打つ。
光の中心に──宇宙人が立っていた。
「アーアー」
ジョニーの眉がひくりと動き、ロボットのアームが微かに震える。
その宇宙人は、まるでラジオのチューニングのような声で、誰にも属さない言葉を続けた。
「真実は、感覚が作るんじゃない?」
ジョニーはマグカップを見下ろした。
ロボットは、自分のセンサーにはない「味」という概念を思い出そうとした。
「わかんない?
君たちの舌が、世界を作っているだけさ」
***
「あー」
ジョニーは何か気の利いた挨拶を宇宙人にしようとした。その結果出たのが、
「ハロー。」
冴えない挨拶だった。
「「ハロー」」
宇宙人と、なぜかロボットまでもが挨拶を返した。
ロボットは少し考えていた
「ねえ、君、硬いことを言うようだけど搭乗パスは持ってるの?」
宇宙人はイタズラをするときのこどみたいに笑った
「その質問をパスしてもいいかい?」
ロボットは黙ったまま、目からスキャン光線を出して、宇宙人の頭から明日のつま先までを検査した。
「んー」
ロボットはそう言ったきりで、宇宙人は何も言わなかった。
ロボットはスキャンをやめてこう言った。
「じゃあこの質問なら答えてくれるかな?」
宇宙人は笑顔のままこう返した
「当ててみようか?」
ロボットは、
「ほう」
とうなる。
「コーヒーか紅茶か?だろう」
ロボットは宇宙人から目を逸らし、ジョニーへと顔を挙げ大声で言った。
「凄いよこの宇宙人、僕の質問を前もって当てたよ」
コーヒーを啜っていたジョニーはその手を止めて、大声で返した。
「そりゃすごい、何がすごいって、君紅茶も出せるんだね」
ロボットは
「おい」
と言ってピポピポ笑った。宇宙人も横で笑った。
「ところで宇宙人さん、おたくの言うことは一昔前なら問題のない発言だったが、今は危険だぜ」
ジョニーはコンテナの上からこんなことを言った。
「多様性の社会だからかい?」
宇宙人の返事にジョニーは狼狽えた。
「話が早くて怖いね」
ロボットが
「だろ」
とジョニーに同意しながら、答えを待たずに入れた紅茶を宇宙人に渡した。
宇宙人は
「コーヒーが良かったのに」
と寂しそうに言った。
ロボットは
「僕、感が鈍いから」
と弁解し、ジョニーまでコンテナの上から
「彼、感が鈍いから」
とトドメをさした。
「昔はね」
とめげずにロボットは言う。
「そういう哲学をするのは、オリジンだけだった。」
宇宙人は、
「弁当かい?」
といった。
ジョニーは静かだったが、ロボットは
「えっ」
と驚いて、思考スキャンをした。目が虹色に光り、ピポピポ電子音が響く。
たっぷり17秒後、ロボットの目は元の通り黒く戻り、電子音も止んだ。
「やっと見つけた、オリジン弁当、、、。2000年前に地球の人間が作ったお弁当屋さんだ」
ジョニーが感心した声を出す
「古いなぁー」
ロボットも首を振る。
「いやぁー」
宇宙人もそれに加わる
「古いねえ」
「人間、、。オリジンは最初から自らをオリジンと呼んでいたのかい?」
ジョニーの質問にロボットは少し迷惑そうに、
「えぇ」
と唸ってまた目を七色にピポピポ言い始めた。検索を待たず宇宙人が口を開いた。
「人間がオリジンと呼ばれるようになったのは、アンドロイドやロボット、サイボーグや地球外生命体と接触するようになってからだよ」
「じゃあなぜオリジン弁当なんだろう?」
ジョニーの疑問は尽きない。
いつしか検索を終えたロボットが笑いながらジョニーに向かって言った。
「人間弁当って意味の方が気持ち悪いだろ」
「それもそうだな」
ジョニーも笑った。
「5感だけが世界を作る。5感が知り得ないものは知ることができない。5感の知り得ない超次元を考えることは理性の過信からくる、いわば暴走だ」
宇宙人は意のそまぬ飲み物を飲みながらこう言った。
ロボットとアンドロイドは
「うん」
と簡単に答えた。
「しかしね」
と切り出したのはロボットだった。
「5感と言ってもな、オリジン、サイボーグ、アンドロイド、ロボット、地球外生命体、有機生命体、また個体差でそれぞれ変わるからなぁ」
ジョニーは頷いて、空になったマグカップをそっと、コンテナの上に置いた。
「それぞれ同じ世界を見ながら、違うように感じてるってのはわかるけどね」
***
光の粒が床に消えてからも、貨物室の空気はまだ微かに振動していた。
「……おかわり、いいか?」
ロボットが無言でアームを伸ばし、湯気の立つポットから新しいコーヒーを注ぐ。
ふわりと立ちのぼる香りが、貨物室の冷えた空気をやわらげた。
ジョニーはコンテナの端に座り直し、マグカップを握りながら宇宙人を見つめた。
「それにしても、君の“感覚”ってやつは予測できないな」
宇宙人はにっこり笑い、指先で宙の光を撫でた。
「予測できるのは、ただ可能性だけさ。
君たちが世界をどう感じるかまではね」
ロボットは腕を組み、虹色のセンサーを微かに光らせた。
「なるほど。感覚で世界を作るなら、観測者が増えれば宇宙は無限に変化する、と」
宇宙人は少し首をかしげ、ふっと笑った。
「たとえばここに、いっぱいの紅茶があるとするね。
僕にとっては a cup of tea──ほっと一息の光景。
でも、ダニさんにとっては、死の熱湯プールかもしれない」
ジョニーは眉を上げ、ロボットのセンサーがピクリと反応した。
「事実はひとつでも、世界は違う。
歴史上の人物だって同じさ。
たしかに“過去に生きた誰か”だけど、語り継がれるたびに脚色されて、
見る人の数だけ別の姿になる」
「つまり」ロボットが言う。
「真実は、観測者の数だけある」
ジョニーはマグカップを傾け、コーヒーの香りを深く吸い込んだ。
「この匂いも、俺の宇宙なんだ」
宇宙人はゆっくりと首をかしげた。
「面白いことに、君の“宇宙”は君だけのものなのに、僕も感じられる。
観測者は増えるほど、世界を豊かにするのかもしれないね」
ロボットは小さくうなずき、コンテナに背中を預ける。
「では、もし君が紅茶派だったら、俺たちはまた別の世界を味わっていたというわけか」
ジョニーは笑い、コーヒーを一口啜った。
「そうだな。
でも、同じ部屋で笑えるってことは、やっぱり世界の共有はできるんだな」
宇宙人は光の粒をひとつ飛ばし、ゆらりと宙を回る。
「結局、真実も感覚も、観測する者の手の中にあるんだ。
世界を作るのは、宇宙でも、コーヒーでもなく──君たち自身なんだよ」
貨物室の静寂に、三者の笑い声が柔らかく混ざる。
そしてサフラゲットビレッジは、音もなく、白鳥座へと滑り続けた。
#観測者の宇宙 #コーヒー哲学 #ことばりうむの星#響き合う声たちイベント#自由合作アンサンブル

響き合う声たち 🎻~自由合作アンサンブル~
参加

yjk☁️
『アカップオブティ』の考察
僕のコメントを発端に、少し哲学チックな対話になったので投稿してみました♪
皆さんはどう考えますか?
⸻
(yjk)
事実とは、「存在することそのもの」である。
それは観測者の有無にかかわらず成立する、現実の構造。
理性はその輪郭をなぞるようにして、それを「認識」しようとする。
一方で真実とは、「その事実をどう感じ、どう意味づけるか」という感受と思考のプロセスに宿る。
観測者が介在してはじめて、それは世界の中に息づき、
感性がその世界を「創造」していく。
そして、構造(理性)と感性が交差するところに、共鳴が生まれる。
その響きの重なりこそが、世界を豊かにし、ときにヒビを入れる。
その営みが、私たちに「生」を実感させる。
こんな感じ?
⸻
(モ!)
事実は存在する事。
理性は存在を認識する事。
真実は各々の解釈。
解釈でそれぞれ世界を構築。
までは何とか分かりましたが、
理性と感性が共鳴する——
この「共鳴」が難しいなあ。
⸻
(yjk)
交差して共鳴──というのは、詩的な比喩です。(カッコつけました)
言い換えるなら、事実(理性面)とは、人の認識を介さずともそこにある「動かない土台」。
いわば、塗り絵の“下絵”のようなものです。
そこに各々の真実(感性面)を通した解釈で、自由に色を重ねていく。
その重なりを俯瞰して見たとき、そこには彩り豊かな世界が広がっているかもしれないし、
混沌としたぐちゃぐちゃな世界になっているかもしれません。
なかには、線に沿わず(意図的or短絡的)に塗る人もいるでしょう。
そんな下絵(理性)と色彩(感性)が重なる(交差する)ことによって、
私達は同じ世界にいるんだ(共鳴)と感じることができる。
みたいな感じでどうでしょうか?
⸻
(あお)
人間にとっての真実は、感性や意味づけを通して形づくられるけど、
ダニには、理性も感性もない。(たぶん……)
だから「真実」というより、「反応としてのリアリティ」があるだけ。
同じ熱い紅茶(事実)も、見るもの(それぞれの存在)によって、まったく違う宇宙になる。
みたいな?
⸻
(yjk)
ChatGPT(人工知能)に聞いたら、ダニさんは「生命を維持するための生きたプログラム」であり、
自然界における分解者・捕食者・被食者として構造の一部に過ぎないらしい。
つまり、自我が存在しないから、各々の世界(真実)を創造する力がない。
故に、視点を持たないために「見るもの」になり得ないから、
その宇宙を感じることすらできない。
生物ではあるけど、構造的には砂や石ころと変わらないのかも。
しかし、人は自我があるが故に構造的整合性を良くも悪くも歪ませる。(矛盾が生まれる)
って感じかな。
⸻
(モ!)
ダニはまず木に登り、高いところに行く。
生物が発する分子を感じると降りる。
目が見えないから、ダニはどこに降りたかもわからない。
しかしそこで血を吸う。
それが生物だったなら血が吸えて、そのエネルギーで産卵する。
もし生物じゃなかったなら、また木に登る。
生物が来るまで、ダニはずっと待つ。
18年待ったダニもいるらしい。
これがダニの世界。
ダニには創造性がないと言うのは、その通り。
でも、ダニにはダニの生態世界がある。
ダニはダニの感じるように生きる。
それは拙くとも、下絵に色を塗っている。
石とは誤差だが、やや違う気がします。
僕は何でダニを擁護してるんだろうw
石に等しいでもいいじゃないかw
⸻
(yjk)
今、僕の理性とモ!さんの感性が交わりましたね♪
ダニさんに読んで聞かせたくなるようなコメントです。
彼らには何も響かない。
でも、それを聞いた他の人の心には揺らぎを与えたかもしれません。
ここに、モ!さんという人間が、
またダニを介して新たな世界を創造したことになります。
つまり、ダニに拙くとも色を塗らせたのはモ!さんです。
世界は今たしかに、
モ!さんの筆によって、
ダニ一匹分の彩を手にしました。
要は、
「それぞれの生物が、その感覚器官と能力によって知覚し、意味づける“世界”。その意味付けを想像するのもまた人間なのでは?」
というはなしです。
⸻
(モ!)
確かに。
言葉はそもそも人間のもので、
思考もまた――人間以外の思考を排した思考しか、
人間にはできないものだよね。
ダニにはダニの世界がある。
けれど、それは人間には感得できない。
感得できないものは、
関わり合いがないに等しい。
それはつまり、
人間にとっては――
石と選ぶところがないのかもしれないね。
⸻
(あお)
十八年も待てるダニのすごきこと。
思考する人間には、とてもできない。
人間は、考えることで
世界に色を与えた気になっている。
けれど――
誰に見られずとも、
ダニの世界は息づいている。
それが、ただの事実。
⸻
(yjk)
なるほど。『アカップオブティ』では「事実はひとつでも世界は違う」「真実は観測者の数だけある」と語られていた。
だから僕は、ダニさんには理性も感性もないという前提で、感じることができない以上、それは機能としての事実しかなく、そこに感得される世界(真実)など存在しない——そう解釈していた。
けれど、その解釈もまた、人間としての僕の理解の限界にすぎない。
あおさんとモ!さんは、その理解の外側で「事実としてダニさんの世界は存在する」と考えるわけだね。
僕は、他者の視点から見える世界は、自分には感じることも理解することもできないから、あくまで想像の域を出ないと思っている。
だから、人の認識できる範囲では石ころと変わらないダニに対して、「誰に見られずとも、ダニの世界は息づいている」と語るのは、詩的で素敵だけれど、それを“事実”として受け入れるには少し抵抗を覚えるかな。
事実とは何か。
真実とは何か。
――そして、世界って、なんだろう?
皆さんは、どう思いますか?
#観測者の宇宙
#コーヒー哲学
いや
#ダニ哲学 ?
#ことばりうむの星
わたし日記『徒然帖』〜灯のこす、ことばたち
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