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あお🫧

あお🫧

『編む』

この世界には、目に見えない「規律」がある。
人は、気づかぬうちにその支配下に置かれている。

あおは歩き続けた。
背後の気配は、消えなかった。
それどころか、音もなく距離を詰めてくる。

夜気を裂いて、《パラディオ》の弦が震えた。
冷たく、完璧な律動。
すべてを無言で灰色に塗りつぶすための音。

あおは立ち止まった。
その瞬間、背後の気配も止まった。
空気が張り詰め、沈黙が広がる。

ゆっくりと振り向くと、そこに「何か」がいた。
鋭い棘、滑らかな渦、圧し潰す壁、霞のような毒。

それらが人の形を取り、無表情であおに手を伸ばしてくる。
──屈服しろ。
──型に入れ。
言葉にならない圧力が、思考を締めつける。

けれど、あおは胸の奥にあるものを思い出した。
「わたしは、わたしの心地よさを選ぶ。」
声には出さず、ただそう思った。

その瞬間、相手の表面にヒビが走った。
棘は鈍り、渦は乱れ、壁はひび割れ、霞はざわめいた。

あおはもう一歩、踏み込んだ。
迷いも恐れもなく。

怪物は形を失い、空へと溶けていった。

残された空気は冷たかった。
けれどその中で、あおは呼吸していた。

歩きながら、あおは自分の中に何かが芽生えたことに気づく。
世界の無数のリズムを、自分の「すき」で編みなおしていく力。

それはまだ小さく、脆かった。
けれど、たしかに灯っていた。

あおは微笑んだ。
そして、新しく生まれた自分自身を連れて、夜の奥へ進んでいった。

新たな影たちが、目を覚ましはじめる。

──規律だけではない。
──混沌、歪み、沈黙、爆発。
世界には、数え切れない異形たちが潜んでいた。

夜の交差点で、あおは出会った。
全身がひび割れた鏡でできた獣。
その歩みは、見る者すべてに違う姿を映し出す。

それはあおにも問いかけた。
「おまえの本当のかたちは、どれだ?」

あおは恐れなかった。
そっと胸に手をあてる。
棘も、渦も、壁も、霞も。
その全部が、「いま、ここにいるあお」だ。

獣は、無言であおを認めた。
ひとつ、世界にまた、あおのリズムが広がった。

こうしてあおは少しずつ、
夜の奥深くに潜む異形たちと向き合いながら、
自分の「好き」を編みなおしていった。

やがて、あおの歩いたあとには
かすかな光と、音楽のようなリズムが芽吹きはじめた。

まだ小さな、けれど確かな変化だった。

この世界では、すべてのものに「名前」が刻まれていた。
石にも、風にも、沈黙にも。
名前のないものは、存在を許されない。
存在し続けるには、規律に従わなければならない。

あおは、最初から「名無し」だった。
この世界では、それは罪だった。
だから、ずっと追われていた。

《パラディオ》の弦が檻をつくる。
震えが無数の名札を編み、あおを捕らえようとする。

──名を刻め。
──型にはまれ。
──意味を持て。

けれどあおは、知っていた。
自分はまだ、決まった形を持たなくていいことを。

彼女は走った。
弦が追いすがる。
檻が狭まる。

それでもあおは走る。
自分の心地よさを、ぎゅっと抱きしめながら。

そして最後に、檻の外に──
無名の、透明な花が咲いていた。

まだ名前を持たないその花は、
たしかに、そこに咲いていた。

あおは花のそばで目を閉じ、
ゆっくりと、ただ在ることを選んだ。


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🎼作者感想🎼

これは以前、カール・ジェンキンスの「パラディオ」から着想を得て創作した物語です。
3か月前は、こういう創作を投稿できる場所がなく、個人でひっそり投稿していました。
ことばりうむの星ができて2か月が過ぎ、やっとここまでたどり着けたことに、ひとり感慨にふけっています[照れる]

今回、イベントに合わせ、改めて再投稿です!

ことばりうむの星で、一緒に遊んでくれるみんなには本当に感謝しています⭐
いつも全力で楽しんでくれるみんなが大好きです[ハート]
これからも、どうぞよろしくお願いします[照れる]
GRAVITY

『パラディオ』~アレグレット

カール・ジェンキンス, カルミネ・ラウリ, ディヴィッド・アルバーマン & ロンドン交響楽団

Song to Story~音楽がくれる、もうひとつの物語~
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