「ゴースト・イン・ザ・レイン ―断絶された最適解―」ネオロンドンの最下層、見捨てられた廃ビルの最上階。そこには、かつて「家」と呼ばれた場所の残骸がある。一体の女性型アンドロイドが床に座り込み、指先にある古びたペンダントを見つめていた。彼女は過去を記録したログの再生を繰り返す「Recalling log: 00-01-13」アンドロイドは家政婦としてある貧しい家庭に派遣さた。父親は既に無くなっており質素な暮らしだったが母親は懸命に働き、少女は母親を純粋に労り、幸せに溢れた家庭だった。「Recalling log: 00-03-21」ある日母親は胸の痛みを覚え、それが不治の病だと気づく。母親はそれでも懸命に働くが、やがて限界が訪れる。彼女に療養生活などする余裕はなく、アンドロイドに我が子を託し安楽死を選んだ。「Recalling log: 00-04-12」――ノイズ混じりの映像。母親が逝ったあとの静かな部屋。泣き腫らした幼い少女が、自身の首から外した安物のペンダントを、アンドロイドの冷たい指に握らせる。『……これ、お守り。私たち、ずっと一緒だよ』少女の悲しげな笑顔。その瞬間、アンドロイドのシステムに、優先順位第1位の「守るべき対象」が書き込まれた。「Recalling log: 00-04-17」二人の生活を維持するための演算が繰り返される。アンドロイドは労働に対する対価が得られない。貧しい彼女たちには、公的な支援も、新たな収入源もない。網膜に表示される残数は、少女が一口食事を摂るたびに、容赦なく、確実に減っていく。「Recalling log: 01-07-12」アンドロイドは、自らの機能を一つ、また一つと停止させていった。味覚センサーを切り、表皮の保温機能を捨て、不必要な歩行ログを削除する。コンマ一秒でも長く、少女に最後の一片のパンを与えるため、自身の電力消費を極限まで抑える「リソースの最適化」。……だが、その日は来た。「ありがとう、大好き」少女は最後に渾身の力を振り絞った笑顔を彼女に向け、そのまま静かに息絶えた。アンドロイドには、涙を流す機能はない。少し悲しげな表情を浮かべた彼女はただ少女を見つめていた。その腕に大切に抱かれた少女の亡骸は長い時間をかけて朽ち、乾燥し、やがて塵となって風にさらわれ、霧散していった。朽ち始めた屋根の隙間から差し込む雨は、彼女の機体を、電子回路を侵食していた。指先から力が抜け、カラン、と乾いた音を立ててペンダントが泥水の中に落ちる。彼女は軋む首をゆっくりと動かし、屋根の穴から見える、分厚い雲に覆われた空を仰いだ。視界が暗転していく。最後に映ったのは、どこまでも灰色の、救いのない空。機能停止の直前、彼女のスピーカーから、歌ともノイズともつかぬ旋律が漏れた。それは、社会に拒絶されながらも、確かに愛に溢れた鎮魂歌。雨音が彼女を優しく叩く。#aikirbyのメモ#ゴースト・イン・ザ・レイン#突然の厨二病発症