オヤジ①40過ぎのおっちゃんの与太話僕の親父は視覚障害者だ。80歳を超えた今も、実家で元気に暮らしている。そんな親父には、家族でも「魔法か?」と疑いたくなる特技がある。ワタシが20代の頃の話だが実家は田舎で、3匹の猫を飼っている。居間で親父と茶を飲んでいると、縁側からかすかな気配がした。「おっ、〇〇が帰ってきたな」親父が名前を呼ぶ。少し遅れて、その通りの猫が顔を出した。驚くことに、親父が猫を言い間違えたことは、これまで一度もない。「なんで分かるんだよ?」気になって聞いた僕に、親父は事もなげに笑って答えた。「大したことじゃないよ。一匹ずつ、足音も歩幅も違うからな。あとは……そうだな、息遣いだ」僕は耳を澄ませてみた。けれど、猫の足音なんて僕には一切聞こえない。無音だ。親父には、僕らには見えない世界が、音のグラデーションとして鮮やかに見えているのだ。42歳になった僕も、世間ではもう「おっちゃん」と呼ばれる年齢だ。けれど、この鋭く、優しく、研ぎ澄まされた親父の感覚に触れるたび、自分はまだまだだと痛感する。「一生かかっても、この人を超えられそうにないな」そんな親父の「音」を、僕はこれからもずっと驚かされるのだろう。#親父の背中 #猫がいる風景 #超えられない壁 #日常の奇跡 #与太話