#GRAVITY百物語#人怖な話「ヤクザの引っ越し」②現場に着くと、そこは普通のマンションで、いかにもヤクザな風貌の依頼人が出てきました。どうやら愛人さんは不在のようです。こちらのスタッフは、確か4人だったと記憶しています。私以外、全て男性でした。挨拶を済ませ、さっそく作業に入ろうとすると、依頼人がリビングの奥にある部屋を指差し、「あそこは女だけで作業してくれ。男はリビングから先には入らないでくれ。」と言いました。必然的に私が一人でその部屋に行くことになります。部屋を開けると、(うわ……これを一人で?)と、途方に暮れました。おそらくは愛人さんの寝室なのでしょう。ベッドの周りには細々とした小物が置かれ、収納の中にもなにやら物が沢山入っています。高そうなお洋服も山のようにありました。梱包に必要な資材を取りに戻ると、上司が「どんな感じ?時間かかりそう?」と聞くので、思った以上に荷物が多く、おそらく3時間以上はかかると答え、すぐに作業に取り掛かりました。「言い忘れてた。」と、急に依頼人が現れ「そこの棚は俺が持っていくからよ、絶対に触らないでくれ。」と、収納スペースにある小さな棚を指差します。「承知しました。」と答えると、ニコッと微笑み「いや〜、助かる。俺、これから猫ちゃん見てくるからよ、あとは頼んだわ。」そう言って、去っていきました。本来ならば、トラブル防止のために、引っ越し作業中は依頼人に家の中に居ていただかなくてはいけなかったのですが、まあ、特別だったのでしょう。作業が終わるまで依頼人は戻りませんでした。私はというと、時間と戦いながら作業を進めます。(せめてもう一人スタッフがいればなぁ。)と、ボヤきながら手を動かし、ベッド周りは箱詰め終了。収納スペースに移りました。#本当にあった怖い話#私の実話シリーズ#残り92話