ある日友達の家にハーモニカがありすごく上手に演奏できたんです無理だと知りつつも 帰宅し親父にハーモニカをせがんでみたすると親父は"いい音ならこれで出せ"と神棚の榊の葉を一枚取って「ふるさと」を吹いたんですあまりの音色のよさに僕は聞き惚れてしまった通学中に葉っぱをむしり一人で草笛を練習しましたでも どんなに頑張っても一向に音は出ない数日でやめてしまいました親父がある日"おまえ悔しくないのか 俺は吹けるがおまえは吹けない。 おまえは俺に負けたんだぞ" と続けて"一念発起は誰でもする 実行 努力までならみんなする そこでやめたらドングリの 背比べで終わりなんだ 一歩抜きん出るには 努力の上に 辛抱という棒を立てるんだよ この棒に花が咲くんだ" とその言葉に触発され僕は毎日練習を続けましたそうして何とかメロディーが奏でられるようになったんです草笛が吹けるようになった日親父の前で披露しましたそして得意満面の僕を見て親父は言いました"偉そうな顔するなよ 何かできるようになった時 自分の手柄と思うな 世間皆様の お力添えと感謝しなさい 錐（きり）だってそうじゃないか 片手で錐は揉めぬ"努力だけでなく 人様への感謝の気持ちが生きていく上でどれだけ大切かということを親父に教えてもらったんです翌朝 目を覚ましたら 枕元に新聞紙に包んだハーモニカが…喜び親父のところに駆けつけると"努力の上の辛抱を立てたんだろう 花が咲くのは当たりめえだよ"子ども心に こんなに嬉しい言葉はありません嬉しくてお袋に話しすると"ハーモニカは3日も前に 買ってあったんだよ お父ちゃんが言ってたよ あの子ならきっと草笛が 吹けるようになるからってね"僕の目から大粒の涙が流れ落ちましたいまでもこの時の心の震えるような感動は色あせることなく僕の心に鮮明に焼きついています#桂小金治
