#小説 #ベリーショートストーリー #創作 #旅する長生きさん短編シリーズ物、挑戦。【目印】初恋は、12の時だった。覚えているわ。一目惚れだったの。相手は旅人さんだった、こんな田舎に、ただ1人で来て、村人たちの手伝いをしたり、子供たちに旅の話を聞かせてくれた。美しい人だったわ。容姿が美しい人、という訳ではなくて、纏う雰囲気が、物腰の柔らかさ、それでいて、子供達には明るく振る舞う……ひとつひとつの、内面的なものが、美しかったのよ。だけれど、時折見える表情は、どこか寂しそうで、…彼の本質っていうものは、全然見えてこなかった。不思議な人だったわ。一目惚れ、なんて言ったけど相手は青年、年齢ははっきりとは分からなかったけれど、私が付き合える相手ではないなんてことは分かっていたわ。だからせめて、この村を離れてしまう前に、その寂しさを、無くしたかったの。「どうして寂しそうにするの」「…僕は、1人だからだよ。」「故郷に家族やお友達がいるんじゃないの?」そう聞くと、少し困ったように眉を下げられた。「…この世界の中で、僕は1人だよ。」その言葉の意味は、真には理解できなかった。何か事件があって、親しい人たちを亡くしてしまったのだわ、と思ったの。だからね。「じゃあ、私が1人にしないわ。」「、旅は1人でいいんだよ」「違うわ」手を取って、目を見て言ったの。「あなたのこと、ずっと覚えておく。だから、…いつか戻って来て。旅の話を聞かせて。そうしたら、あなたはこの世界に一人ぼっちじゃないでしょう?」私がそう言うと、彼は面食らった顔してから、困ったように笑って、「私に花の種を渡したのよ」「お花?」病床で、窓辺に飾ってある花を指さす。「綺麗でしょう、ここよりずっと東で咲いている花なんですって。真っ白で、……まるで彼みたいだと思ったわ。」彼は、私に種を渡すと「これを目印に、また、君に会いに行く。君が僕を、忘れない限り。…そして君が、幸せである限りね。」開いた窓から入る風が、花を揺らす。なんだか儚くて、彼みたいだ。「おばあちゃんはまだその人のこと好きなの?」「、ふふ、好きだけど、おじいちゃんの方が好きよ。…旅人さんは…結局来なかったし、彼の抱えているものは分からなかった。今は彼に恋愛的なことは思っていないわ…ただ、私が彼の支えになっているなら、いいな、と思っているだけよ。」微笑む。結局私は、凄く長く生きたわ、幸せな人生だった。彼との約束通り幸せなのに、彼は会いに来てくれないのね。私がこの年齢でこんななのだから、彼はここにくることなんて…少し残念だわ。子供の頃のように、旅の話を聞かせて欲しかったのに。カランドアベルがなる。孫が出て、少ししてワー!とはしゃいで帰ってきた。その後ろを着いてきたのは「…、会いに、来てくれたのね」子供の頃に見た彼と、ちっとも姿の変わらない、旅人さんだった。「窓辺に目印の花が咲いているのを見つけてね。」あなたは何者なの、どうして容姿が変わってない?色々聞きたいことはあったけれど「…遅いわよ」「旅の話、聞きたいんだろう?」「……えぇ、そうね。……聞かせて。子供の頃みたいに。」