初めて出社した日。お昼をどうするか聞かれて、出前を頼んだ彼女は、まだ足りないとでも言わんばかりの顔で、ペロリと平らげた。その度胸と愛嬌、そして何より新人とは思えぬ落ち着きとテキパキとした受け答えで、あっという間に彼女の評判は上がっていった。そして一人、完全に彼女の虜になったやつがいた。同じ職場の松本だ。で、何て答えたんですか。翌日、喫煙所で会った後輩の島田が聞く。いや、普通にいないって言っただけだよ。またぁ。そんなこと言ってると、松本さんに取られちゃいますよ。いや、まっちゃんほど熱心にオレは仕事教えられないし。実際、松本は新採の渡邉に、これでもかと言うほど丁寧に、そして熱心に仕事を教えていた。とはいえ、側から見れば、そこには明らかに好意が見え隠れしていたのも事実だが。そしてもう一つ、中途採用の透からして見れば、入ったのは先でも年齢的には年下の松本とは、イマイチ距離を測れない状況にあるのも事実だった。そんなことを見透かしていたのか、オレもですよと言う顔で笑っていた福田の頭を叩いて、喫煙所を後にした。#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #喫煙所 #新採