2ヶ月ぶりに実家に帰省した。家族で夕飯を食べ部屋の片付けをし、弟と少しゲームをして過ごした。帰る時には弟が駅まで自転車を走らせてくれた。実家から駅までへと繋がる大通りは雨上がりのアスファルトとが光を反射し私たちを照らした。「気をつけてな。」弟は最後にそう言った。 ビニール傘はもう不要であった。クローゼットに眠っていた秋物のセーターが入った紙袋を両手に抱えていたのだから。まるで終業式になるまでに荷物を持ち帰らなかった小学生だ。(紫陽花も持っている) 20時50分発の電車に乗ろうとした時であった。私の前に乗車しようとした若い青年が、降車しようとした中年の男と大きく肩をぶつけた。その刹那、男は後ろを振り返り青年の背中をビニール傘で突き刺した。青年は驚いた顔をして振り返りその男を狼のような切れ長の目で睨んだ。車内で胸ぐらを掴み怒鳴り合う男2人。それを針のような目で見る乗客。隣で呆然とする私。どれくらい経ったのであろうか。1時間、いやほんの数秒だ。私はこの時鉛の様にもたついた身体を無意識に動かしていた。この男達を降さなければ。その一心であった。絡み合う2人をホームへ突き出し。その仲裁に当たった。酷く興奮している様で目は充血し息を荒げていた。ホームに降りても反対側のホームから針は降り注いだ。不幸なことに近くに駅員はいない。 私を間に挟み暫く怒号は続いた。私は2人を宥め、冷静さを取り戻させようとした。しかし、2人の矛先は私へと向き始めていた。青年は私に向かってこう言った。「お前みたいな偽善者が1番腹が立つんだ。」「関係の無い奴は引っ込め」男は私に向かってそう言った。この時私はこの発言に対して気に留めていなかったが、この騒動が終わった後に私は電車の中でこの言葉を反芻した。善とは偽りなのか。1つ思うことは2人のエゴは私によって予測できない壊れ方をしたのだ。誰しも善、最良で動いてはいるがそれは万人に共通していないことは事実だ。世界大戦だって起源はそこにある。しかし大半がそれは悪だと口を揃え言うはずだ。仮にその2人だけ存在する空間であれば、第三者が介入若しくは傷をつけられることもなかったであろうに。 私の住んでいる街はまだ雨が降っていた。柔らかくぬるい雨だ。 ビニール傘は必要だった。#初投稿#日記#断片#エッセイ