ちょっとした小話。珍しく早く準備ができた朝。「おぉっ」随分と貫禄のある猫と目が合った。すぐに逃げるかと思ったが動かない。不思議に思う前に“にゃー”と弱々しい鳴き声が聞こえた。「まじか……」自家用車の前タイヤと後ろタイヤの間に横たわるもう一匹の猫。私の存在に気付き逃げようとしているのか鳴きながら起き上がるも、先に動いたのは私を見つめていたあいつ。「どうしよう……」動物病院?猫アレルギーの私が?むりむりむり。でも、まだ生きてるじゃないか。ここには私しかいないじゃないか……っ!「ーーもしもし、あの今、ね、ねこがっ、、」近くに動物愛護団体があるのを思い出して、混乱した頭で電話した。だから、気付かなかった。『ーーあぁ、うち猫扱ってないんで』犬専門の場所だ、と。絶句。勝手に助けてくれると思ってしまっていたから余計に言葉が出なかった。すぐに電話を切って、その場にしゃがみ込む。……横たわる猫が小さく上下に揺れている。久しぶりに冷え込んだ朝。動かせない車。吐き捨てられた言葉。どうにもならないと思ったとき浮かんだ110。「どうすればいいか教えてもらえませんか?!」近所の交番に駆け込んで、半泣きの私を見た警察官はすぐに猫の様子を見てくれた。「仕事行ってください、しばらく様子見てみるので。ごめんなー、動かすよ」シートの敷かれた場所に優しく置かれた猫は鳴くこともなかった。状況と連絡先を伝えて仕事へと向かった私は心がズタボロ。何もできず通報した形になったこと、もしかしたら猫は静かに眠りにつきたかったのではないかと、もう一匹が看取るつもりだったのに邪魔をしてしまったのではないか、と。よくTVでみる“運命的な出会い”の美談を思い出しては、自分の無力さを痛感していたところにーー電話が鳴った。『飼い主見つかりましたよ!』まさかの連絡。どうやら私がいなくなったあと、警察車両が止まっているのに気付いた人が声を掛けてきて発覚。放し飼いをしていた一匹だったようで「連れて帰って看取ります」と猫を連れて行ったとのこと。今思えば、確かに野良猫にしては毛艶が良かったなぁとか、どうでもいいことを思い出してため息。でも、警察官は欲しい言葉をくれたんですよね。「通報してくれてよかった。飼い主さん感謝してましたよ」って。#小話 #感謝されるのは…