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3月11日の津波が去って
一ヶ月ほど経ったある日です

30代半ばの女性が
二人の男の子を連れ
思い詰めた表情で
石巻本署にやってきました

生活安全課勤務の
本橋修巡査が応対しました

椅子をすすめると
女性は途端に涙をこぼし
こう切り出したのです

私 実は被災したお店から
水や食料を勝手に持ち出しました

女性は声を上げて泣き出し
つられて二人の男の子も
大声で泣きます

巡査はすぐに状況を察しました

巡査自身
救援物資が入ってくるまでは
食べもの 飲みものがなく
目がくらむような辛さを
味わっていたからです

女性は言葉を続けます

"食料も水も足りるようになり
悪いことをしたのに
このままではいけないと
悩むようになりました

子供たちが正しく生きていく
ためにも責任を取らなければと
考えて警察にきたのです "

女性の正直さは
本橋巡査の胸を打ちました

それと同時に 困惑で
体が固まってしまいました

場合が場合だ…それは
人として責められないでしょう

一市民として そのセリフが
喉から半分出かかりました

だがしかし警察官の制服を
着ている自分が強く意識された
自分はなんのために
この制服を着てここにいるのか…

そして本橋巡査は
あえて強い口調で言いました

"自ら出頭してきたことはいい
しかし いかなる状況でも
窃盗は犯罪です

店舗が被災した上に
商品まで盗まれた被災者のことを
考えてみてください

自分のしたことが分かるはずです "

そう厳しく注意し 以降の措置は
被害者と連絡がついてからに
なると告げ 親子を一旦帰しました

署を出る親子の後ろ姿を見送ると
引き裂かれるような
辛さが膨らんできました

いかなる場合でも一つの例外も
残さないのが仕事の鉄則
すべて正しく法に則った措置を
するのが警察官です

本橋巡査はそっと窓口を離れ
奥に行って窓に寄り添い
にわかに涙がこぼれ落ちて
止めようがなくなりました


子供たちが正しく
生きていくためにも
責任を取る母親の思い…

勇気ある母親の背中を見て
子供はまっすぐに育つ

#山野肆朗
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