夢の中の戦場でスマホを握る✧• ─────────── •✧夜明け前、曇天の空が不穏に揺れていた。突然、遠くの地平線の向こうで光が弾けた。次の瞬間、耳をつんざくような轟音とともにガラスが震え、世界が赤く染まった。ミサイルだった。どこから、誰が撃ったのかもわからない。ただ、爆風の圧が皮膚を押しつぶすように襲ってくる。気づけば、私は走っていた。靴底が割れそうなほどの速さで。周囲には見知らぬ人々がいた。みんな叫びながらも、スマホを離さない。「○○市がやられた」「地下鉄が閉鎖」「ライブ配信で現場が見える!」SNSの通知音が交錯し、空の爆発音と溶け合う。目の前で吹き飛んだ建物の中から、人が叫んでいる。それでも、逃げながら映像を撮る者がいる。「今、ここで記録してるんだ」と誰かが呟いた。その声が何故か妙に冷静で、恐ろしかった。私もポケットの中のスマホを取り出した。手が震える。電波はまだ生きている。ニュースアプリが「緊急速報」を永遠に更新し続ける。だが、国名も敵国名も出ない。全てが「不明」のまま。もはや誰と誰が戦っているのか、誰が正義なのか、誰が勝っているのか——誰にも分からない。燃える空の下、私は廃墟の影に身を潜めた。息を殺しながら、画面に映るコメントの奔流を眺める。「#避難中」「#爆撃証拠映像」「#家族無事」そこには生命の証のような言葉と、心が壊れた笑顔の絵文字が並んでいた。私は思わず呟いた。「これが現実なのか?」背後でまた爆発が起こり、世界が震えた。画面がひび割れ、光が乱れ、音が消える。その瞬間、視界の端で誰かが膝をつき、空を見上げていた。彼もまたスマホを掲げていた。——同じように、終わりを撮っていたのだ。次の瞬間、全てが白く弾けた。そして目が覚めた。息が荒い。心臓が痛い。部屋は静まり返り、外はいつもの12月の朝だった。だが、手の中で握りしめたスマホの熱だけは、まだ夢の中の爆風のように現実の感触を残していた。✧• ─────────── •✧【完】