週の半ばということもあってか、店内には他のお客はさほどいなかった。まぁ、それは透にも好都合ではあったのだが。こんなところを職場の同僚に見られたら、何を言われるかたまったもんじゃない。ましてや、松本に知られたら、余計厄介なことになる。次の日も通常勤務のため、2人とも、さほど深酒はせず、早々に店を出た。次の電車は何時なの。うーん、15分後ぐらいですかね。じゃあ、まだ時間あるな。そう言って透は駅のロータリーにあるベンチに向かった。頭では分かっていた。どれだけ追いかけても、彼女には彼氏という存在がいることも。しかしながら、酔いも回っていたのか、透の気持ちは抑えきれなかった。ほんと可愛いな、お前。ほんとですか?お前に彼氏がいなければな。どういう意味ですか。それ以上でもそれ以下でもないよ。そう言って、隣に座った佳穂の頭を撫でていた。佳穂も嫌がる様子もなく、少し照れながら、そう言って貰えると嬉しいですと返事をしていた。もうすぐ、次の電車が来る。早くお別れを言わなければならないのは分かっていたが、どうにも彼女を手放すことは出来なかった。そろそろ電車が来るので。あー、そうだな。ようやく、ベンチから腰を上げ、透は答えた。また、明日も会えるのだ。何より、今は彼氏よりも自分の方が近い距離にいる。そんなつまらない事実でも、透には少しだけ優越感を与えた。駅の改札口まで佳穂を見送り手を振る。じゃあ、また明日。今日はご馳走様でした。彼女と別れた帰り道、透の中で、いや、二人の間で何かが動き出した。夜風が夏の到来を感じさせていた。#魔法のアイランド #私小説 #ただの思い出 #夏の思い出 #夜風の帰り道