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骸鳥(工作員)
野良大工がウチの庭に営巣していた
野良の割に腕は確かなようで
実に見事な土壁 入母屋造りの巣を拵え
産卵に備えて奥の座敷に鎮座している
これだけ見事な巣ならば
うまく追い出して空になった巣を売れば
そこそこの高値で売れるはずだが
夜になると寂しそうな声で鳴くので
そのままにしておいた
3週間ほど経った頃
明け方にホウホウと声がするので覗いてみると
床の間にはまだ金槌も鋸も生えていない雛大工が4匹ばかり身を寄せ合って鳴いていた
親大工はエサを求めて出稼ぎにでも出ているようだ
オレは雛大工たちを脅かさないように気をつけながら
死んだ叔父さんの形見の墨壺を
勝手口の上り框にそっと置いた
年代物だが
丁寧に細工の施された高価な墨壺だ
オレが持っているよりずっといいはずだ
親大工はびっくりするだろうか?
きっと喜んでくれるに違いない

骸鳥(工作員)
閉じた瞼の裏側に
赤や緑や紫の
羽虫のような毛のような
得体のしれないモノがいて
閉じた瞼の裏側で
目玉をそちらに向けるけど
ピチピチ跳ねるソイツらに
なぜか視点が定まらぬ
何度やっても無駄だから
瞼の裏のもう一つ
奥の奥まで深い場所
決して閉じてはならぬ物
『次の瞼』を閉じました

骸鳥(工作員)
地面を青く撫でた
トカゲの草を愛でるように
段ボールの憂いを投げつけてくる空き瓶は
丸く微笑んだ命の袋だ
星模様の母は
今日も慈愛の端くれで電気を殴る

骸鳥(工作員)
今朝のことだ
乳酸菌
という言葉の意味が急にわからなくなって
今日は一日中『乳酸菌…乳酸菌…』
とブツブツ呟いていた
乳酸菌には羽根がはえていたかもしれない
乳酸菌と約束を交わしたような気がする
乳酸菌で恋人と待ち合わせたはずだ
乳酸菌を失くして困りはてた記憶がある
乳酸菌の痛みは二度とごめんだ
乳酸菌の角を曲がって…
乳酸菌より時計の方が…
乳酸菌はもしかすると…
乳酸菌だとしたら…
乳酸菌からの…
乳酸菌へ…
乳酸菌…
乳酸菌…
そうだ 明日は海を見に行こう

骸鳥(工作員)
ツバメの雛は巣で鳴いている
半径300mの範囲内に漂う冷めた空気を感知したからだ
キュイキュイキュイキュイキュイキュイ…
アタッシュケースから
組み立て式の日時計を取り出し
角のポストに入れられた遺骨を呼ぶ
フゥゥゥゥゥ厶…
あれを見るがいい
寄る辺なき魂とオーケストラ指揮者の宴だ
騒がしいだろう?
ジキキジキキジキキジキキジキキ…
もうすぐ消えるよ

骸鳥(工作員)
限界まで汗をかいた後でスポーツドリンクを飲めば、たいがいは判る
スポーツドリンクは以下のどれかだということが…
・サーファーの海パン絞り汁
・力士塩の希釈液
・ラガーマン汗 濃縮還元液

骸鳥(工作員)
猫のヒゲはいつだって
誰かの犯罪に敏感だ
裏路地の
光を寄せ付けない
夜の残滓や
恨みつらみの塊に
ほんの少しだけ
マタタビパウダーをふりかけてやれば…
猫は見ている
猫はいつでも見ているのだ

骸鳥(工作員)
足の裏にΦ100のキャスターを取り付けてみた
なかなか具合が良くて
まるでカレーライスのスプーンに映る
夜空の星のようだ
脳内で呼び出し音が鳴る
肩を回す時間だ
タバコの煙が犬のように
小さく光った

骸鳥(工作員)
こんにちは
お元気ですか?
不安ですか?
昼ごはんは冷やし中華ですか?
ぼかぁ、いま
朝と夜の端っこで懺悔ダンスを踊っています
肘の角度と手首の角度のバランスが
ダンスの最重要ポイントです
段ボールで作った大陸間瞬間移動装置で
ジャマイカの熱風を感じるために旅立ちます
それじゃあ皆さん
約束のカリフラワー畑でお会いしましょう

骸鳥(工作員)
通勤途中に見かけた鹿は
緩和ケア病棟から抜け出してきたばかりで
ひどく高揚しているようだった
迅速かつ冷静に捕獲するべく
助手席の妻に
『握り虫パイプを1.3mと虹ロープ(星)を3m買ってきてくれ』
と頼み、馬のキーを渡した
『必ず生きて踊ってね』
と言い残し妻はドープセンターへ走った
緊張のせいで足の小指が苦い
今日は長い一日になりそうだ
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骸鳥(工作員)
シィちゃんは
まるで煮物のように
クルクルと寝た
青と砂の丸い煙が
きらびやかにこっちを見ているので
ぼくは嬉しくて椅子に話しかけた
上と横がこんがらがったままの安全靴に
歌の把手がよく似合う

骸鳥(工作員)
ガラス瓶の薄緑色に
爆ぜる気持ちを着せて
塩漬けの夢に出かけた
苦いサインペンで描かれた
季節と乱気流の端っこを
舞わないように捻る

骸鳥(工作員)
キラキラしたペンキは甘くて
屋根の上のタイヤによく合う
素早く持ち上げて夢で煮た
明日の朝には
濃くなるというのに
取り返しのつかない海辺の鉄が
しなやかにこんがらがった

骸鳥(工作員)
散歩中に見つけたいくつかの新しいメルヘン
持って帰って部屋に並べた
いきなり
知らぬ場所に連れてこられたメルヘンたちは
肩を寄せ合ってオドオドしている
全部同じに見えるがよく見ると
蛍光灯の光を反射して
それぞれが違う色に光っていた
ぬるま湯とキレイなタオルで
丁寧に拭いてやったら
気持ちよさそうに眠った
手ごろな箱にバスタオルを敷いて
全員を寝かしつけたが
翌朝になって覗いたら
小さな羽だけを残して
メルヘンチックに消えていた

骸鳥(工作員)
ヤカンがシューシュー鳴っているから
ぼかぁ寝返りを打ってみたワケだよ
するとどうだ?
屋根の上にいた天狗が
急にスウェーデンポップを歌うじゃないか
ぼかぁ驚いたね
思わず2つばかり放屁して
取り調べを受けたよ

骸鳥(工作員)
壁掛け時計の秒針が不意に
『もうすぐだよ!もうすぐだよ!』
と騒ぎ出したので
オレはカップ麺を食べられなくなった
仕方がないので礼拝堂に行く
礼拝堂ではモレリとニンドが言い争っていた
『空だ!』『いいや布だ!』
『違う!棒だ!』『馬鹿を言うな!石だ!』
…と足を踏み鳴らしている
気づかれないように扉を閉めた
帰り道には青い子供がいて物乞いをしている
『リズムをください 嘆くためのリズムです』
とすがりついてきた
哀れに思って右手で『踊れ』の標識を叩いた
トントン トトン トントトトン
青い子供は泣いている
いい事をしたのか
それとも罪を犯したのか
途方に暮れたオレは
朝食で食べられないまま左手に持っていた〇〇を投げ捨てて地面にひれ伏し
青い子供の流した青い涙で
アスファルトに見たことのない鳥の絵を描いた
どうやらまた一つ罪が増えた

骸鳥(工作員)
回っていたんだ
夕暮れの公園で
日没の赤が奏でるヨーデルのような晩夏の残響音に内臓が捻れたから
歌っていたんだ
帰路の車の中で
エアコンのダクトが無理やり整えた空気の流れが肩甲骨の裏側にある擬似声帯を震わせたから
もうすぐ止まるんだ
どことも知れない場所で
何かができそうで何もできなかったという自分の歴史が精一杯立っている足元を蹴飛ばすから
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