5日間の出張の中日、家庭の喧騒を離れて味気なく無為に過ごすホテル生活。出張先から程近くに地元にはない大型の書店があり、今日は仕事が早く上がったついで、気慰めにふらと足を運んだ。 全国展開の大きな書店だけあって、入居する百貨店のほぼまるまる1フロアを占める売場面積。しかも客の背丈よりずっと高さのある書架が、やや手狭な通路の幅を残して、ぎっちり詰め込んであった。広い売場のいちばん奥まったところに位置した文芸書架も、壮大な列をなしていた。 目当ての俳句関連書籍の棚へ行き着くと、やはり期待を裏切らない充実ぶりだった。入門書、歳時記、評論書と、蔵書量の差こそあれ、ここまではまず日頃からお目にかかれるラインナップ。しかしすっかり棚2列ぶん並んだ句集の仕切を目にするや、これには目を輝かせずにはいられなかった。句集なんてせいぜい梅沢富美男のが1冊置いてあるぐらいなのが、地方のしがない書店の現実であるからだ。 小躍りしつつ、今晩のお供にする一冊を選びにかかった。棚からあれこれと引き抜いては飛ばし飛ばしにページをめくり、せわしなく品定めをしていると、Amazonで見覚えのある色とタイトルの背表紙が目に入った。 起立礼着席青葉風過ぎた カンバスの余白八月十五日 で、あの俳句甲子園を沸かせた、あの神野紗希さんの句集。『すみれそよぐ』 彼女が結婚、出産、そして子育てを経験した時期の作品を収めた句集だ。冒頭の何句かを一読して、まずその表現の引き出しの多彩さに目を奪われると、もはや品定めの手を止めてレジへ向かうだけとなった。帰りしなにデパ地下へまわり半額のお惣菜やらを買い込むと、一路ホテルへ急いだ。 夕食も手短に、句集を手に取り読み進める。俳句甲子園の印象そのままの爽やかさに、口語体を基調とした語りかけの形式、平明な言葉選びと、ほっこりと柔らかなトーンが全体を覆う。題材はごく身近な日常の出来事なんかが中心で、表現に語弊があるだろうことを承知で言うと、「日常系マンガ・アニメ」の、あの感じ。それでいて薄っぺらなところがなく、いわゆる報告俳句に堕さないところには、表現の確かさが光る。 切れ字や古典文法を用いた句も、口語主体の作風から乖離しない軽やかさで詠みこなしていて、確固たる作家性の樹立が感じられるのも素晴らしい。 とりあえず半分ほど読了。幸せな時間を過ごせたのと同時に、勉強になる点も多々あり。とても良い一冊に出会えました。#俳句 #句集 #神野紗希 #すみれそよぐ