恋人ではない彼のこと~2~。彼は、いつも私にどこか触れていたいみたい。お風呂で私にまわす腕が、心地よい。運転中、手遊びのように髪をなぞる指先も、心地よい。テレビを見ているとき、私の肩に頭をあずける重さも、心地よい。彼の触れかたは、大事なものに触れるようで。だから私は、「ここにいていい」と思える。階段を下りるとき、少し前を歩いていた彼が、ときどき立ち止まって、ふりかえる。見上げるほどの身長差。それでも、彼がふりかえると、視線はまっすぐ私に届く。その瞬間だけ、ふたりの高さがそろうみたいで──くすぐったくて、うれしい。お祭りが好きなことも、イチゴのチョコが好きなことも、「味のない飲み物きらーい」っていう変なわがままも、そのまま受け止めてくれるのが、うれしい。私は、何を返せているだろう。答えはわからないまま、「もーおなかいっぱい」と言う彼に、パンをちぎって食べさせてみる。はむはむと食べる彼に、なにかがあふれて、わしゃわしゃと頭をなでてみる。やっぱり彼は、ぱあっと笑う。最近の流行りは、美容室ごっこ。丁寧に髪を洗って、ホットタオルを首にあてて、マッサージをして。目を閉じる彼の横顔を、こっそり見る。湯気の向こうで、夜がふかくなっていく。そろそろ、おしまいの時間。「またね」は言わない。帰り際、彼は私にキスをする。背の高い彼が、少しかがんで。そして、はにかんだ笑顔で、手をふる。帰宅したら、彼の香水の香りを、ずっと強く感じる。私の服や髪に、そっと残っている。包まれていたい──そう思って、すぐに打ち消す。私は、私の部屋に戻っただけ。#包まれる夜