#不思議な話「文通」①友人Sの話をします。Sとは大学が一緒で、卒業してから文通をするようになり、今に至るまで細々と文通を続けています。出会った大学生の時分には、実は全く親しくもなく……同じ学部同じ学科とはいえ、交友関係が華やかなSと、私はタイプが真逆でしたので特に話すこともありませんでした。そんなSとの大学での思い出といえば、一度だけ夜中にピアノを弾くSと話したことがあるくらいです。当時は経済的な事情から毎日夜遅くまでアルバイトをしており、帰り道にサークル棟に寄って楽器を練習して帰る日々でした。プレハブの部室は2部屋に分かれていて、片方にはアップライトピアノが置いてありました。2回生になった、春先のことだったと思います。大学生活にもすっかり慣れ、夜中の自主練習もルーティン化しており、いつも1人で小一時間楽器を吹いていました。あの日。部室に着くと、叩きつけるような激しいピアノの音がしました。(ショパンの〈革命〉だ。一体誰が……。)思わずピアノ部屋のドアを開けると、そこに居たのが、Sでした。Sはこちらを見ることもなく、革命の演奏が終わるまでピアノに向かっていました。終わるとようやくこちらに気付いたようで、「うわ、この時間人来るんだ?」と、こちらを見ます。「ごめんなさい。」と、私はSの顔を見て慌てて言いました。Sは、どうやら泣いていたようでした。「ピアノ、上手だったからつい……。」なんだが凄く悪いことをしたような気持ちになり謝った私に、「これしか弾けないの。」とSは呟き、そして語り出しました。「私、浪人してこの大学入ったんだけど、浪人中に気晴らしで練習したのが、これ。ピアノは習ったこと無いし、ただひたすらこれだけを毎日弾いてたら弾けるようになって、受験も受かったんだよね。私の、革命。」真っ直ぐ響く、いい声でした。Sとの思い出は、私の中でただこれだけです。「私、あなたには敵わないと思ってる。」大学の卒業式。Sとは、ここでスッパリと縁が切れるはずでした。ところが何故か、突然Sが話しかけてきたのです。「私さ、正直言って大学で出会った人の中で、この先も繫がっておきたいの、あなただけなんだよね。」#GRAVITY百物語#怖い話#私の実話シリーズ#何話目だったか忘れたけど20話は超えた