-旅から帰ってきて思うのは、まず「疲れた」ということ。充実したとか、リフレッシュしたとか、存分にたのしんだとか、そういった肯定的な感想は出てこず、「疲れた」のみ。慣れないことをやっているから疲れるのだ。 じゃあなんで旅に出るの?と、人にはよく訊かれるが、たぶん、あの旅がはじまったときの開放的な、目覚めのような瞬間が、慣れない幾多のことを遙かに上まわって魅力的だからだ。そしてその終わった旅のよさというのは、疲れが抜けきってからようやくじわじわとあらわれてくる。ときどき、旅から帰って半年後、「すばらしい旅だった」と思うこともある。旅のはじまりも遅いが、旅の終わりもまた、私はうんと遅いようである。-《世界中で迷子になって》-角田光代-(小学館文庫)#小説切り抜き #今日の小説 #角田光代 #読書 #GRAVITY朗読部