『残』彼女と付き合って初めてのデートの食事はマックだった。その日は、いろんな「初めて」を経験した。初めて手を繋いだ。そっと握り返してくる彼女の、意外としっかりした手の感触。緊張か何なのか分からないけど、握り合った二つの手の間の湿度はどんどん上がっていく。ふと、彼女が笑う。「ふふ、手汗すごいww」「いや、ごめん……汗かきだから」「うん。知っとう(笑)」その何気ない返しに、いちいち俺の心臓が跳ねるのが恥ずかしい。(あっ……また湿度が上がった)手を繋いだまま、俺は彼女に聞く。「なぁ、ゆう? お昼なにがいい?」「ん? そうやね〜 マックがいい♪」「え? そんなんでええの? もっとさ、フレンチとか……」「あははは♪ なに言っとん?だって、ウチら高校生やんかww そんなお金ないってww」「あっ、そうやな……」(一応、お年玉貯金下ろしてきてんけどな)俺たちはそのままマックの列に並んだ。もちろん手は握ったままで(笑)「あれ? ハッピーセット頼むん?」「うん。お得やねん。オモチャいらんけど」「え? いらんの?」「いらんわ(笑)」俺たちは席に着いて向かい合う。「ウチさ、マックのポテトがめっちゃ好きやねん♪」「へー、俺も好きやで♪」「んでな、いつも頼むのはチーズバーガー」「そうなん? 限定メニューとか興味ないん?」「ない(笑) 安定が一番♪」「へー……」彼女は俺と喋りながらも、視線は俺の方を向くことはなく、マックポテトとチーズバーガーに夢中みたいだ(笑)(ずりぃなぁ……なんでマック食べてるだけやのに可愛いねん……)マックを食べ終わった後も、街を徘徊しながら俺は彼女のことをいろいろ知った。あの建物が可愛いとか、服にあんまり興味がないとか、方向音痴だとか、イケメン好きだとか。そして、意外と俺のことを見てくれていたこととか……だけど、この日を最後に俺と彼女がマックを一緒に食べることはなかった。──数年後「あー、暑いな……どっかでテキトーに涼める場所ないかな〜」俺は近年の猛暑にやられて、飯なんてなんでもいいから早く冷房の効いた屋内に入りたかった。「おっ、マックあるやん♪ そーいや、最近食べてへんな。あの日以来かもな……まぁ、ええか♪」少し感傷的な気分になりながらも、暑さに負けて俺は数年ぶりにマックに入店した。「へー、最近はこんな……てか、高っ! 嘘やろ? マックて今こんな……噂には聞いとったけども……」久しぶりに見たマックのメニューの記された数字に驚きながらも、俺は注文を進めた。その途中で、ふとあるメニューが目に入った。「あっ、ハッピーセット……」一瞬、もうハッキリとは思い出せなくなった誰かの顔が浮かんだ気がした。「へへ……まぁ、流石にこの年で頼まんわな(笑)」そう言って、俺は別の期間限定メニューを注文した。「んー、微妙やな……やっぱ安定のやつにしときゃ良かったかな」一口食べて少し後悔する。「まぁ、でも……お前は俺を裏切らんやろ?」そう言って、俺はセットに付いてきたマックポテトに目をやる。まず一本、口に入れた。「あっ、ちょっとしょっぱいな(笑)」そう感想を漏らしながら、また誰かの顔が浮かんだ。「ウチさ、マックのポテトがめっちゃ好きやねん♪」幻聴だろうか、でも誰かの声が聞こえた気がした。視界が滲んでくる。一体、あれからいくつ夜を越えただろうか……今でも忘れられないあの笑顔と声、そして手に残った湿度。夏の暑さのせいか、マックポテトのせいかも分からないけど、どうやら俺の目の湿度もかなり上がってしまったみたいだ。「せめて、最後に笑顔が見たかったな……」#飯テロ玉手箱 #ことばりうむの星 #残響 #初恋の味 #これ飯テロか?