【Lineage/リネージュ《血統》(全7章)】① 出逢い┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈春の匂いは、春の終わりが近いことを告げている。柔らかさの中に、どこか乾いた気配が混じっていた。骨格のはっきりとした体躯に、全身を黒い布で包んだ、長い髪の男。私は、その輪郭から目を離すことができなかった。『彼は誰ですか?』助手にそう聞いたのは、確認のためではない。時間を稼ぐためだった。「今年、洋画コースに入った王宇英ですよ。昨日も教室にいました。」助手はいつも通り、こちらの聞いていないことまで教えてくれた。王宇英(おう・ゆうえい)。名前を口にした瞬間、胸の奥で、何かが決まってしまった。人物を描くとき、私は近しい人間しか描いてこなかった金がなかった頃からの習慣でもあり、他人を借り物のように扱いたくなかったからでもある。だが今回は違った。夏の暑い日も、冬の冷たい日も、私は彼を見ていた。彼は決まって、あの渡り廊下を歩く。どこから来て、どこへ行くのかは分からない。だが、通る場所だけは変わらなかった。教室では、窓際の席に座ることが多い。彼が立ち去ったあと、同じ場所に立ってみる。光の当たり方が、ほかと明らかに違う。そのことが、私を強く惹きつけていた。#創作小説 #紫苑 #Lineage