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西門佳祐

西門佳祐

タケミちゃんは高1のクラスメイトだ。
スタイルが良く綺麗な顔立ちをして、とても物静かな人。
駄菓子屋をやっているお祖母ちゃんの家に住んでいて、両親と離れて暮らしてた。
何かをきっかけに、なんとなく仲良くなって、遊びに行くといつもジュースとお菓子で歓迎してくれた。

ある日音楽の話で盛り上り、最近ハマっているというミュージシャンのアルバムを見せてくれた。
『十七歳の地図・尾崎豊』とあった。
「聴いてみる?」
もちろんと頷いた。
流れてくる曲に耳をすませると、え?なんだこれ?こんな歌があったの?言いたくても言えなかった、伝えたくても言葉にできなかった想いを、代わりに歌ってる…。
囁くように怒るように、嘆き悲みながら叫んでる。僕は目を腫らし涙ぐんでいた。
「貸してあげるよ」
タケミちゃんは3枚のアルバムを差し出した。
そう、僕に尾崎豊を教えてくれたのはタケミちゃんだっだ。

家に帰り3枚のアルバムを何度も繰り返し聴いた。
コピーした後、自転車で近所の海岸へ行き、波を見ながら聴いた。
何度も何度も聴いた。
波音は尾崎の声の奥で響き、空も風もみんな優しくて、どっぷりと尾崎に浸かった。
そんな僕を見て、タケミちゃんは嬉しそうにニコニコしていた。

高2になりクラスが別れ、おまけにタケミちゃんには恋人ができたので、一緒に帰ることも遊ぶことも少なくなった。
僕も部活やクラスの友達と遊ぶのに忙しくなり、タケミちゃんとはどんどん疎遠になった。

いわゆる思春期の、どうしようもない孤独感ややるせなさに、押しつぶされそうだった時期、僕は尾崎の歌に救われた。
でも、何か得体のしれない悲しみを抱えながらも、ふたりでくだらない話をして過ごした日々に、本当の意味で救ってくれたのはタケミちゃんだった。
尾崎を借りたときの「タケちゃんサンキュー」は随分軽かったけど、今なら思いを込めた「ありがとう」が言えるよ。
タケミちゃん、今どうしているかな?
カッコいいオヤジになってるかな?

#800字エッセイ
#尾崎豊
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15の夜

Yutaka Ozaki

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西門佳祐

西門佳祐

もう随分前の話。
地元の大学祭に某女性歌手が来から一緒に行こうと上司に誘われ、断ると面倒くさいので了承した。

仕事の関係でチケットを入手したものの、当日は凄い行列に少し眩暈。
だが、列を尻目に関係者入口へ向かう上司は、忙しそうにしているスタッフに
「お疲れー」
と声をかけながら、ステージ脇までやって来て立ち見ポジションをキープした。
「あの人達誰だっけ?」
というスタッフたちの囁きを耳にしつつも、クールを装う。
無関係者だとバレないか、内心冷や冷やモノ。

やがて幕が上がり、初めて見る若く可愛らしい女の子が歌い始めた。
聴いたこともない曲をいきなり聴かされても正直ピンとこない。
ステージを厳しく見つめる関係者風な男を装う始末。
来場者達は盛り上がってるし、上司はニヤニヤしてて嬉しそう。
やれやれと思いながら時間をやり過ごす...。
ようやく最後の曲になると、演奏なしのアカペラで歌うと彼女が言う。
いくら大学の体育館とはいえ結構広い。
呼吸をおいて、静かにのびやかな声が館内に響き始めた。
しなやかで芯のある声に耳を傾けていると、何やら胸の奥が締め付けられて苦しく、ザワザワと背中から腕にかけて鳥肌が立つ。
サビのところで一際のびる声が、静かで物悲しい世界を作り、いつしか僕も彼女の歌に魅了されていた。

終了後、駐車場に向かう道すがら
「誘ってくれてありがとうございました」
と上司に礼を言うと
「良かったやろう」
と自慢げに笑う。
「ところで、アカペラで歌った曲、とてもよかったのですが、曲名ご存じですか?」
「あれがお前、『三日月』だよ」
そうか、あれが『三日月』なのか。

初めて生で聴いた『三日月』。
耳の奥でまだサビの部分が繰り返されていた。
「ところで、よくステージ横まで行きましたね?」
「スーツ着て挨拶されたら、大抵は事務所とか催事の関係者だと思うやろう」
不敵に笑う上司の背中を眺め、ああ、この人には敵わないなと思いながら、月のない空を仰いだ。

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三日月 - ayaka's History ver.

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